閑話 盗賊団銀狼(3)
ソラリスの怒気をはらんだ笑顔にかなり怯えつつも、既に見透かされている奥の手を展開しようとする盗賊達。
実際ソラリスは、奥の手を展開させたうえで叩き潰す事を狙いとしており、力を抑えている。
武神であるソラリスが全力で圧をかけただけで、この場にいるゴミ達は、まさにゴミになる事は間違いがない。
しかし、今の状態のソラリスであれば奥の手が通じると思っている盗賊達は、躊躇なく切り札を切る。
「仕方がねー、おい、銀狼を解放しろ!」
盗賊団の頭であるグガンデが、宝玉を持っている団員に告げる。
団員も、戸惑うことなく宝玉を床に叩きつける。
宝玉を中心として煙幕がでるが、部屋を覆う前に銀狼がその姿を現した。
その名の通り、神々しい銀色の毛並みを持つ巨大な狼で、神の使いと言われても納得してしまいそうな姿……であったのは一瞬で、ソラリスの気配を感じ取った瞬間、お腹をさらけ出して完全な服従のポーズを取り始めた。
更に、怯えるような鳴き声を上げる始末。
「フン、お前は立場を良くわきまえているようだな。これで無駄な殺生はしなくて済むぜ。だが、そこのゴミどもは別だ。これが奥の手とは笑わせやがる。覚悟はできているだろうな?」
「そんな馬鹿な、おい!完全ではなくともテイムしているんだろうが!!早くあのふざけた女を噛み殺させろ!!」
グガンデは宝玉を持っていた、銀狼をテイムしている団員に必死に指示を出している。
「もうやっていますよ!でも、何の反応もないんです!!」
最早軽いパニックだ。
自分の身にすら危険がある可能性を孕んだ最強の奥の手が、まるで飼い主に怒られたペットのような行動をとっているのだ。
これでは、数多くの犠牲を強いてまで銀狼を封印した意味がない。
慌てふためく盗賊団をしり目に、ソラリスは最後通告を行う。
「これで終わりだな。では、お前らは今まで他人に与えていた恐怖を味わいながら消えろ!」
ソラリスは、服従を示している銀狼と、自らの仲間以外に圧力がかかるように、コントロールできるレベルでの力を出し始めた。
かなり抑えた力ではあるものの、まるで重力が数十倍にでもなったかのように、盗賊団銀狼の団員は地面に縫い付けられた。
「お前……俺達にはむかって、ただで済むと思うなよ。俺の後ろにはあのジャミング帝国がついているんだぞ!!」
「だから何だ?今から消えるお前が何を騒ごうが知るか!」
バキ、ポキ……「ぐぁ~!!」
既に骨に損傷を与える程の圧力となっている。
「待ってくれ……わ、わかった。もうこの国から出て行く。だからもうやめてくれ!」
「ハハハ、お前、そう言って命乞いをした人々を助けた事があるのか?ふざけんじゃねーぞ」
余計にソラリスの怒りを買ってしまったグガンデ。
もはや何もしゃべれるような状態ではなく、涙や涎を垂れ流しながら、縋るような目でソラリスを見ている。
だが、そんな姿を見てソラリスがこんな連中を助けるわけがない。
唯一助かる可能性がある方法は、キグスタからの中止命令が出た時だけだ。
つまり、この悪党共の末路は決まっている。
グチャ……ペキペキ……
無残な音と共に、その詳細について一切知られていなかった、謎の、そして最強最悪の盗賊団である銀狼は、その存在をこの空間で完全に抹消された。
「ハン、このゴミ共が。おいお前ら。私はこの銀狼をどこかに放した後にソレッド地区に行く。後は任せたぞ」
「「承知しました」」
ナルバ町の門番の業務を行っている超常の者の配下、そして、その男の怒気に気が付き様子を見に来た同格の者は、自らよりも格上の存在であるソラリスの指示に従う。
こうして、ナルバ町の平和は人知れず維持されている。
だが、ソラリスは、ゴミが最後に脅迫めいた事を言っていた“ジャミング帝国”については、今後の動きに注意する必要があると考え、ヨハンに既に知らせている。
あの三人、ホール、リルーナ、フラウに偵察のために向かわせた国家の中に、ジャミング帝国は入っていないためだ。
そこからキグスタに情報が行くはずなので、命令によっては国一つ滅ぼすつもりでいたのだ。
銀狼については、本人の希望する方向に転移し続けた結果、とあるダンジョンが住処だったようで、その場に解放済みだ。




