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閑話 盗賊団銀狼(1)

 いつの時代、どこの場所にも悪党はいるもので、残念ながら今キグスタが生活しているこの大陸にも悪党は存在する。

 

 その悪党でも、権力者とまで繋がりを持てるほどに成長し、身分を偽って迄他国に侵入、そして暴虐の限りを尽くす事で恐れられている盗賊団がいた。

 もちろん国に喧嘩を売るわけではなく、国の中にある町と町の移動経路に現われて、全ての物を奪っていくのだ。

 そう、命までも。


 彼等に遭遇してしまっては全ての物が奪われるので、その存在を明確に認識しているのは、後ろ盾になっている某国某貴族しかいない。

 しかし、襲撃された者達の凄惨な現場に、彼らの旗印である銀狼の描かれた何かしらの物がおかれている為に、その名を大陸中に轟かせ始めていた。


「お頭、最近のナルバ村……町?ソレッド王国が無くなってから、あの辺りは目覚ましい発展を遂げているようですぜ」

「ああ、聞いている。移民も多く受け入れているらしいな」

「待ってくれ、お頭!あの国には龍もいるし、イカレタ力を持つキグスタとか言うガキがいるんですぜ?そいつが龍を従えて、あの国の防衛をしているんだ。それに、あの王国が滅んだのはそいつの力のせいらしい。そんな奴のいる所にわざわざ危険を冒してまで行くんですかい?」


 にやりと笑う銀狼のお頭と呼ばれている男、グガンデ。

 何も知らずに初めて会えば、どこの貴族かと思う程顔立ちも良く、姿勢や動きも洗練されている。

 しかしその本性は全く異なる。残虐な性格をしており、一度狙いをつけた獲物は、どのような理由があっても全てを奪う事を徹底してきた男だ。


「その位はわかっている。だが、国家全てを隈なく守るなどは不可能だ。今まで通りに行動すれば問題はないだろう。それに考えてもみろ?あれ程の急激な発展に必要な物資、あの国内全てで忙しなく搬送されているに違いない。きっと今までとは比べ物にならない位のお宝があるに違いないぞ」


彼等の基本的な行動は、森に潜み、国家間、または国内の移動中の集団を襲ってきた。

 成功率は今まで100%。逃がした物も、者も一人もいない。


「そうですね。わかりました。万が一危険な匂いを感じたら引きましょう」

「もちろんだ。命を失ってまでお宝が欲しいわけじゃないからな」


 グガンデに提言していたのは、魔獣をテイムしている男だ。

 この男の力で、危険な匂いのする仕事については、一団は狙いをつける前に回避していた。


「おうお前ら!今からナルバ町に向かい、グリフィス辺境伯…いや、グリフィス王国の王都のどこかの森に潜むぞ」


 次の狩場が決まり、途端に沸き立つ銀狼のメンバー。


「グハハ、この間手に入れたばかりのこの短剣。早速試してみるか」

「今度の獲物は、多少腕の立つ奴がいればいいがな」


 ゲスらしいセリフを吐きながら移動の準備を始め、慣れているのか一時間後にはナルバ町に歩を進めていた。


 いつも森で獲物を待つようなスタイルの銀狼一行は、当然道中の野営も慣れており、何の問題もなくナルバ町近くまで辿り着く。


「おいおい、本当に龍がいやがるじゃねーか」


 誰かの一言に、全員が視線の先の空を見る。

 そこには遠目からでもわかる巨大な龍が悠々と王都方面に移動している所だった。


「そんな事はわかっていただろう?逆に完全に制御されているようだ。見つからなければ問題はない。それに、見てみろ!」


 グガンデは、少々遠くにある街道を指し示す。


 そこには、難民だけではなく、一気に発展したナルバ町、グリフィス王国で生活をしようとする者達が列をなして移動していた。

 もちろん、その中には商人もいるので、荷馬車の隊列ができている。


 俄然やる気になる銀狼のメンバー達。

 一旦森の中に退避し、商人とそれを護衛する冒険者と言う姿に変装して街道に合流する。

 ナルバ町内部の情報も得ておこうと考えての行動だ。


 程無くしてナルバ町の門が眼前に迫る位置まで来た。


「これは……確かにここまで一気に発展するとは、これだけの移民や商人がいるのも頷ける」


 グガンデは、以前のナルバ村を知っている。

 当然防壁などある訳もなく、襲う価値すらない程度の村と認識していた。


 それが、国内の混乱で危険が増していたソレッド王国から避難している短い間に、ここまで発展して見せたのだ。

 思わず漏れる本音、称賛の声が出てしまった。


 一方、これから得られるであろうお宝を想像し、その整った顔を醜い笑みに変える。


 周りの商人が使っている幌馬車も、今までの経験から相当価値のある物が運ばれているのは間違いなさそうだからだ。


 成功する未来を思い浮かべつつ、徐々に入口に近づいている銀狼一行。

 かなりの列になっているので、門の入口近辺で何やらチェックしている者の他に、門番が列に並んでいる人々に口頭で聞き取り調査をしている。

 入門までの待ち時間を少なくするための処置と理解したグガンデは、貴族から準備してもらった商人の登録証、そして同行している者達は冒険者証を取り出して、こちらに来ている門番の一人に提示する準備を整えた。


「今日はどのようなご用件で?」


 門番の定例句をにこやかな笑顔で返すグガンデ。


「ええ、実はこのナルバ町がかなり発展したと聞きまして、私達も何か商売ができないものか……と思い、どの国でも喜ばれてきた商品を持ってきました」


 そう言いながら、門番に証明書と先頭の幌馬車の中身を見せる。

 そこには、多種多様な保存食、娯楽用品が積まれていた。


 もちろん、以前に他人を襲って奪った物の一部だ。


「おぉ、ここまで多種多様な品を扱っているとは、素晴らしいですね。わかりました。ではこちらへ」


 一応身分や入国動機についてはクリアしたと考えた一行は安堵する。

 今までの経験から、その後は簡単な注意事項程度を入門直前に聞かされて終わりだろうと考えていたのだ。


 同じように列に再び並び、少し経つ。


「次の方!」


 門番に呼ばれて、銀狼の一行は門の入口付近まで移動する。


「入国の目的は商品の売買。登録証は商人……と。護衛は冒険者達ですね」


 この門番は、机の前にある椅子に座っている。そして、時折来場者からは見えない位置、足元に置いてある水晶を確認しているのだ。


 もちろん、水晶は真っ赤になる。

 既に慣れた門番は、表情を変える事無く彼等を移動させる。


「わかりました。では、あちらの建屋で証明書を書き写させて頂けますか?」

「えぇ、わかりました」


 今まで経験のない手順を踏まれて訝しんだが、指示された建屋に向かう。


 当然そこにも衛兵のような者達が立っており、建屋には大きさの異なる入り口がいくつか存在していた。

 その建屋に誘導された人数によって、建屋に入るために使用する入口を変えているのだ。


 銀狼のメンバーは、この建物に誘導されていない商人がいる事を既に確認している為、建屋にいる者に疑問をぶつける。


「あの、何故私達はこの建屋に誘導されたのでしょうか?あちらの商人はそのまま町に入るようですが?」

「ああ、一度でもこちらに来た事がある方達は既に登録済みですから、再びここで登録していただくような面倒な作業をして頂く必要はありません。申し訳ありませんが、ご理解のほどお願いします」


 この説明で納得する銀狼。

 流石はナルバ町の精鋭だ。

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