あの三人
翌日、俺はいつもの通りヨハンを伴ってナルバ村に行き、その場でホール、リルーナ、フラウを連れてグリフィス王国に転移した。
この三人、腐っても上位スキル持ちの為、万が一があっては大問題となる。
その為、この場でソラリスとハルムも召喚して、監視をする事にした。
ヨハン一人でも十分すぎるのだが、恩あるグリフィス国王に何かあれば取り返しがつかないからな。
超常の者達に囲われた二人は動揺し、フラウは相変わらず表情が抜け落ちている。
先ずは、カンザの今を見せる所から始まる。
全員が馬車で移動し、鉱山のような場所に到着すると、遠目にカンザと…ワウチ帝国のナントカ将軍、そしてナントカ皇帝が見える。
カンザとナントカ将軍は両腕がないため、背中に括り付けられた背負子に大量の鉱石が積まれている。
二人共スキルの力によって地力があるので、多少ヨタヨタしているが、無事に仕事をしているようだ。元皇帝は……悲惨だな。
この場を案内してくれた兵士が、教えてくれる。
「ここは、重犯罪者が業務を行う鉱山です。正直、環境は劣悪です。しかし、得られる鉱石が貴重であるので、この鉱山は、閉鎖はされません。採取場まではかなり深く潜る必要がありますが、落石や、鉱山内に潜む魔獣によって命を失う犯罪奴隷が後を絶ちませんが、幸か不幸か、重犯罪者も後を絶たないので……お恥ずかしい限りですが」
カンザの状況を確認した三人は、次は自分の番かと思っているのか、口数が極端に少ない。
いや、フラウは昨日からこんな状態だったがな。
その後、今日は謁見の間ではなく、何があっても良い様に、鍛錬場の脇にある大きなスペースでグリフィス国王と面談し、グリフィス王国から事情が説明される。
もちろん、監視をつける事や、成果によっては今の状況から解放する可能性がある事は一切伝えていない。
こうして、半ば強制的にあの三人を、反旗を翻しそうな国と、その同盟国、それぞれに飛ばした。
「キグスタ殿、上手く行きましたな。それでは、得られる情報が正しいかの確認についてはよろしくお願いします」
「こちらこそありがとうございました。あいつらの監視はもちろんですが、情報はこちらでも収集しておきますので、ご心配なく」
一旦、問題の種を遠くへ飛ばした…所謂先送りをして、ナルバ村の再開拓に着手した。
だが、俺はさっきからヨハンの感情、何やら怪訝な感情を<統べる者>で感知していた。
こんな感情は初めてだったので、少々心配になり、フォローしようと口を開く。
「ヨハン、どうした?何か心配事か?」
「いえ、申し訳ありません我が君。実は、あのフラウと言う者に、何とも言えない違和感を感じまして……」
こんな事を言うのも初めてだ。
しかし、俺程度の力ではその違和感とやらを、感じる事はできなかった。
「長らく極限の生活にいたから、精神的に少々おかしくなっているのではないか?」
「そうかもしれません。大変失礼いたしました」
珍しい事もあるものだ、と思いつつ、再び普段の生活が始まる。
ホール、リルーナ、フラウについては、それぞれ別の国に行っているが、今の所得られている情報で、反旗を翻す国の急先鋒にフラウ、それに追随しそうな国にホールとリルーナを行かせている。
こちらとしては、各国の情報収集が終われば、あの三人の監視だけすれば良いので、情報収集を初めに実施してもらっている。
すると、新興国ではあるが、この辺りでは最強国家と認識されているグリフィス王国に嫌悪感を示している国家、フラウを向かわせた国家が戦闘準備をしていることが確認できた。
ここは、グリフィス国王に確認を取る必要があるが、俺達が龍達を引き連れて向かえば、本当の力が分かってもらえるだろう。
つまり、余計な戦闘をしなくて済むという事だ。
とりあえず、この情報をグリフィス国王に報告して、俺は自宅に戻る。
フフフフ、そう、自宅に戻ると子供が待っているのだ。
ナタシアとの子供が産まれた。
可愛い男の子で、グレッグと名付けた。
小さい手をニギニギしているんだぞ!可愛いだろう。
そして、もう少しで、クレースとファミュとの子供も産まれそうだ。
これから更に賑やかになるのを楽しみにして生活をしていたある日、監視の虫型魔獣を制御しているソレイユがやってきた。
「我が主、ホールとリルーナに関しては必死に情報取集を行っているのですが、フラウに関しては、普通の人間では気が付く事のできない虫型魔獣を全て排除した上で、逃走致しました。これからあちらに向かって、魔力を探索した上で排除してもよろしいでしょうか?」
はい?あの表情が抜け落ちて、何の気力もなさそうになっていたフラウ。
そして、持っているスキルは上位スキルの<剣聖>だ。
ソレイユの言う通り、虫型魔獣を全て消すなどと言う芸当はできる力はないし、できるような精神状態、体力ではなかったはずだ。そもそも、虫型魔獣を見つけられるはずがない。
まさか、これがヨハンの言っていた違和感なのか?
背後に控えているヨハンを見るが、難しい顔をしているだけだ。
「想定以上の事が起こっている。向こうに行ってフラウを探す時は、ソラリスも連れていけ」
不測の事態が起こっている可能性があるときは、安全に安全を重ねた方が良いのは知っている。
超常の者達が二人いれば問題はないだろう。
どうやって魔獣を検知したか、そして破壊したか……
なぜ突然そんな行動をとったか、そしてどこに逃走したのか……
疑問はつきないが、これ以上考えてもこの状態で答えなど出るわけもないので、ソレイユとソラリスに任せよう。
しかし、ヨハンが違和感を感じたと言っていたほどだから、更にもう一枚安全策を施しておこう。
ソレイユとソラリスが転移した後、最後の安全策を実施する。
そう考えた時、何とも言えない不快感が俺を襲った。
これが、ヨハンの感じた違和感か?
「ヨハン、以前言っていた違和感についても気になる。二人を向かわせたけど、念のためヨハンの方でもあの二人を捕捉して、何かあれば、俺に許可を得るまでもなく、即向こうに向かってくれ」
「承知いたしました、我が君」
今、アクトは……クレースとファミュの所か。
こちらも念のために防御力を上げる必要があるな。
「ハルム!」
「お待たせしました、御主人」
「もう知っていると思うが、フラウに向かわせた場所で異常が起こっている。フラウの状況を確認する為に、ソラリスとソレイユを向かわせたが、こちらでも安全のために、即ナタシアの護衛に入ってくれ」
「承知しました」
「ヨハン、全ての龍に厳戒態勢を取らせ、超常の者達全員を均等に配備させてくれ。それと、グリフィス国王にも連絡を頼む。全員に再度警戒態勢を取るように伝えてくれ」
「はっ!」
ここまでしても、不快感、そして嫌悪感がなくならない。
一体何が起こった……




