移民対策
パソコン復活しました
このソレッド地区の統治を任されてから、かなりの時間が経過した。
…のだが、今なお、毎日毎日ワウチ帝国側からの移民が絶えない。
「どれだけ圧政だったのだろうな?今は、真面になっているはずなのだけど。このまま移民が増えると、中継の町をもう少し広げるか、増やすしかなくなるな。それとも、王都に住んでもらうか?」
俺の目の前には、はち切れんばかりのお腹をしている三人がいる。
最初に子供がいる事が判明したナタシアは、今にでも産まれそうだ。
その為か、父さん母さんとクリスタは、俺達の周りを常にうろうろしている。
孫が見たくて仕方がないと言ったところかもしれないが、クリスタとそう変わらない年齢になるのだから、少しは落ち着いてもらいたいと思っているけれども、口には出せない。
もちろん、妻達が少しでも不満に思うような行動をとったら、お願いして訪問を少し控えてもらおうと思っていたが、三人の妻たちは、クリスタとよく遊び、父さん母さん共、とても仲良く過ごしてくれている。
そのため、この俺の独り言を拾ってくれたのは、ヨハンだけだ。
「我が君、それであれば、直接グリフィス国王にご相談されてはいかがでしょうか?」
まぁ、ヨハンならではの回答だ。俺でも思いつく…と言っては失礼だが、それしか方法はないだろうな。
よし、これから王都に向かうが、万が一を考えて、今妻達に付き従っているアクトの他の三人も顕現させ、この場で妻達の安全を確保してもらおう。
実は最近、三人の妻達の付き添いは、専らアクトになっている。
と言うのも、万が一の際に死と生を司り、欠損まで難なく回復させる事ができるアクトが、今の妻達には適任だと思ったからだ。
もちろん、他の三人も同様の力を持っているが、やはり得手不得手は有る訳で……
かなりの過保護とはわかっているが、初めての子供だ。万が一も無いようにしたい。
こうして、俺に呼び出されたソレイユ、ソラリス、ハルムは、アクトと共に、三人の妻達の安全を確保するために、護衛についてもらった。
ここまですれば、俺の心にもずいぶんと余裕が出る。
「皆、移民が増えている事の対策を話すために、グリフィス国王の所に行ってくるよ」
「キグスタ様、最近はこちらに籠りっきりで、きっと龍達も寂しがっています。私達を気にせずに、今回は龍に乗って行ってあげては如何でしょうか?」
確かに、少し前にソレイユから龍達が俺に会いたがっていると言っていた事があった。
色々忙しくて、疎かになっていたのだが、俺のために力になってくれている人、魔獣、超常の者達には、やはり直接感謝の気持ちを伝えないといけないな。
「わかった。そうするよ、ありがとうナタシア。クレース、ファミュも行ってくるよ!クリスタ、良い子にしてるんだぞ~。父さん母さんも行ってきます」
ヨハンと共に龍番のいる場所に行くと、そこには土龍が待機していた。
今日は土龍が王都への直行便の担当なのだろう。
「キュ~~!!」
嬉しそうに俺に鼻を擦り付けてくる土龍。
「長い間会えずにごめんな。途中の町にいる他の龍にも挨拶しておきたいから、中継の町にもよってもらえるか?」
「キュ~~~!!」
この日は直行便を利用する人が俺達以外にいなかったので、途中の町に寄り道させてもらう事にした。
もし利用者がいた場合は、特別サービスで転移させるつもりだったが、余計な事をしなくて済んだ。
土龍は喜びからか、興奮した様子で俺達を背中に乗せると、勢いよく飛び立った。
最も移動速度が速い風龍と変わらない程の速度を出してくれている。
もちろん、乗っている俺達に風が当たらないように魔法で防御もしているので、かなり快適だ。
十分ほどで一つ目の町に到着して、龍番のいる場所に降りると、そこには炎龍がいた。
俺を背中に乗せている土龍を視認すると、かなり嬉しそうな表情を見せていたのが可愛かった。
同じように、それぞれの町に待機している龍達にお礼と労いの言葉をかけたのだが、全ての龍が土龍に対して羨ましそうな顔を見せたのが印象に残る。
最後の町は、龍番に龍はいないのでスルーする事にしたが、こんな事なら、定期的に彼らの背中に乗せてもらった方が良いかもしれないな。
やがて王都の龍番がいる場所に到着し、王城にいるグリフィス国王と面会する。
「忙しい所すみません」
俺は、一地方を統治しているだけでアップアップしている。
国を統治しているグリフィス国王は、俺の比じゃないはずなので、忙しさはわかっているつもりだ。
「いえいえ、今日はどうしました?龍による運搬も好評で、治安も問題なし。という事は、お子さんの件ですか?」
俺の子供が産まれた報告と勘違いしているグリフィス国王。にこにこしているが、今日は残念だけど、その報告じゃない。
「いえ、そうではなくて、ワウチ帝国側からの移民の話です。未だ移民がソレッド地区に流れ続けている状況なので、中継の町を増やすか、町を大きくするか、この王都で住まわせるかの相談に来たのです」
「そうだったのですか。楽しみすぎて少々先走ってしまったようですな」
俺達の事を気にかけてくれて嬉しいが、今日は、移民についての解決策を必要としているので、頭を切り替えてもらう。
「そうですな、もちろんこの王都で引き受けさせていただく事も可能です。ですが、ワウチ帝国の国境側の地域についても、きちんと開拓してみてはいかがでしょうか?もし、移民達がワウチ帝国から極力離れたいと言う事であればこの案は使えませんが……」
グリフィス国王の案としては、俺の考えていた案のどれでもなく、今のソレッド地区を大きくすると言う方向だった。
確かに、ナルバ村方面に開拓されていない場所があるし、そもそもナルバ村もかなり小さな村だ。
あの場所を町にするだけでも、かなりの移民が生活できるだろう。
グリフィス国王の言う通り、ワウチ帝国から距離を取りたがっている移民以外については、そこで生活をして貰ってもいいかもしれないな。
安全の為にあの場所にも龍番を作っておけば、安心して生活してもらえるに違いない。
「グリフィス王、ありがとうございました。早速ナルバ村周辺を開拓したいと思います。何かありましたら、また相談させてください」
あっという間に方針は決定し、俺は妻達の元に戻り、この案を話した。
「ですがキグスタ様、あの場所にはあの三人がいるのでは?」
「そうだぞ、キグ坊。あいつ等もそのままあそこに住まわせるのか?」
「私としては、あの三人については、もうどうでも良いので、キグスタ君の好きにしてください」
そうだったな。ナルバ村にはあの三人が住んでいた。
多分だけど、今も無事で生活しているのだろう。
う~ん、どうするか。だが、ナルバ村周辺の再開拓についてはそのまま実行したい。
ここで悩んでいても仕方がないか。
どの道、向こうには行かなきゃならない。
その時に、あいつらの態度で考えよう。




