ソレッド地区の整備に奔走する
それぞれの龍は個体によって得手不得手があり、風龍の移動速度は速いが、土龍は少々遅いと言った感じだ。
とは言え、誤差の範囲内とも言える。
当然グリフィス王国側にも、道中の整備と、制限は掛けるが、速度が段違いの龍による運搬についても報告した。
突然伝説級の龍が現れて混乱状態に陥らないようにするためだ。
グリフィス国王は、その龍達が運搬の他に、万が一の時の戦力になると聞いて喜んでいた。
この龍による運搬、どのように制限をかけた方が良いかグリフィス国王にも相談した所、途中の町までは特段制限をかけずにおくが、必ず何れかの中継の町に宿泊する事を条件とし、直行の場合は、金貨数枚を徴収する事で決定した。
だが、その制限だけに囚われてしまうと、例えば王都側に残した家族に異常があった際、ソレッド地区から駆け付ける際に、お金の有無で利用できるかが決まってしまう。
同じ国民として、それは避けたかった。
そのため、再度精霊神ハルムの力を借りる事にし、商売や遊び、そう言った用途の場合には金貨を徴収し、やむを得ない事情では、直行便も無料とする事にした。
もちろん、龍の出発と到着地点は固定とし、その場所には門番ならぬ竜番?が水晶によって緊急性の有無を判断する事になっている。
そんな事を決定して、準備をしている今この時も、ワウチ帝国側から移民が続々と到着しており、ある程度、彼らの要望を聞きつつ、移住先を決定している。
この地区に住む者、王都への道中の町に住む者。
当然、どこに住んでも安全は保障され、既に家も建てている最中である事は説明している。
「ありがとうございます。私は宿屋で働いていましたので、家族と共に道中の町に住まわせて頂ければと思っております。もし、もしよろしければ、同じような仕事も与えて頂けますとありがたいのですが」
とこんな感じだ。
「住む場所まで用意して頂いているとは思いませんでした。ここからの移動中には、ある程度完成しているのでしょうか?」
こんな質問もあったりする。
「ここからの移動は、王都への直行ではないので龍で移動します。少し待っていただければ、家は完成していますよ」
おそらく、超常の者達全員での作業を行っているので、有り得ない速度で町が整備されているだろう。
王都から来た住民達は、既に俺達の力を知っているのであまり驚きはしないが、ワウチ帝国側からの移民は、驚いている状態を落ち着かせるのに時間がかかった。
やがてヨハンより、
『我が君、全ての整備、完了いたしました』
と連絡が来る。
もちろん、俺達家族が住む予定の元王城も美しく仕上がっている。
俺達だけでは広すぎるので、ガーグルさんを始めとしたグリフィス王国から来た移住者の一部にも住んでもらう事にした。
そして、五体の龍を元の大きさに戻し、いよいよ中継の町に向けて各龍が飛び立った。
中継の町に移住者を下ろした後は、顔見せの意味もかねて炎龍は王都まで向かい、その他の四体は、中継の町に一晩留まる予定だ。
今回の中継の町は、等間隔に五つ整備した。
そのため、炎龍が担当した箇所だけは龍がいなくなるので、自分達を運んでくれた強大な存在がいなくなった事による不安を解消するために、その町にはソレイユを派遣している。
美しく、当たりの柔らかいソレイユであれば、彼らの不安をとる事ができるだろう。
そして、王都側で炎龍達を定期的に到着させる場所には、ソラリスを配置している。
こちらは、少々口は荒いが、ソレイユ同様美しい。
そして、既に王都側ではある程度認知されているので、炎龍が来た時点で万が一パニックになりそうな時でも、うまく対応してくれるだろう。
俺は、ヨハンと共にグリフィス王国へ転移する。
「グリフィス様、全て作業終わりました。もうすでにワウチからの移民も来ており、こことソレッド地区を結ぶ中継の町を五つ作成し、ほぼ均等に住んでもらっています。そして、定期的な運搬のための龍も、今回は炎龍をこちらに向かわせています。おそらくもう少しで着くでしょう」
「ありがとうございます。いや、わかってはいるつもりでしたが、想像を軽く超える力ですね。これで、我がグリフィス王国も安泰です。今後とも、よろしくお願いします。キグスタ殿!」
こうして、一応統治のスタートは問題なく切る事ができた…と思っている。
キグスタが統治を任されている地区には、ナルバ村が含まれている。
相変わらず、そこに住んでいるホール、リルーナ、フラウの三人。
フラウの武器は既に壊れ、最近はホールの武器も壊れてしまった。
だが、フラウの必死の陽動と、リルーナの魔法攻撃、そしてホールの拳を痛めながらの攻撃によって、最低限の食糧は確保できていた。
もちろん、薬草も必死で採取し、ホールの拳の回復に努めているが、限界が近いのは誰の目からも明らかだ。
だが、ある日から、突然自分たちの攻撃が楽に通るようになったのだ。
「あれ??」
今までは、決死の一撃を叩き込んでも、反撃してきた魔獣達。
だが、今回は一撃で相手が沈んでしまった。
一瞬驚く三人だが、こんな事もあるのだろうとしか思わず、警戒しつつ即帰還した。
「本当に久しぶりに何の怪我もなく終える事ができましたね」
リルーナの声は、絶望しかない生活から、僅かでも好転した出来事を喜ぶように少しだけ弾んでいる。
「ああ、正直に言うと、俺の拳はもう限界だったんだ。だが、今回の魔獣は表皮も固くなかったようで、拳へのダメージもなさそうだ」
手を握り、感触を確かめながらホールが話す。
だが、既に精神的に限界を迎えているように見えるフラウは、人形のように何も話す事はなかった。
この魔獣の戦力低下、実は、キグスタの意図しない指示による。
ソレイユは、キグスタからの全ての力を解除して、新生ソレッド地区のために力を使うように言われたため、ナルバ村の魔獣に付与していた強化についても解除していたのだ。
そして、更には伝説の龍が近くにいる気配を感じて、ある程度強い魔獣は避難してしまったため、ナルバ村周辺に残っている魔獣は、気配察知すらまともにできない、所謂“雑魚”だけになっていた。
生活環境が、ある日大きく変わった三人は、徐々に体力を取り戻し、やがてフラウの精神状態も上向き始めた。
だが、やはり心の奥では、いつの間にか少しは楽になったこの生活、いつ元に戻るかもしれないと言う恐怖はぬぐう事ができずに、リルーナの魔法で十分な食料の備蓄を行っていたのだ。
周りに脅威となる魔獣がいなくなってある程度時間がたつと、ワウチ帝国側からの移民らしき人々を良く目撃する事になった。
最初は警戒して、姿を隠すように生活していたのだが、移民達は明らかに武人ではなく、戦闘力もほとんどないと判断した三人は、ある日、意を決して話しかける事にした。
「あの、すみません。これからどちらに向かうのですか?ソレッド王国でしょうか?」
実はこの三人、ナルバ村の周辺のみで命を懸けた生活を続けていたので、色々な情報が入っていなかった。
「え?あの、ソレッド王国はなくなり、グリフィス王国に併合されました。そのソレッド王国の王都があった場所は、ソレッド地区となり、私達のような移民を受け入れて下さっているという話なので、向かう事にしたのです」
三人は、お互い見合っている。
そういえば、ソレッド王国を追放される少し前、自分達、いや、ほぼカンザの行いのせいで軍が壊滅的な被害を受けていた事を思い出した。
その後に、他国から嫌われていたソレッド王国は攻撃をされたのだろうと判断したのだ。
そして、グリフィス王国に併合されたという情報から、あの国王を始めとした王族、貴族達は一掃されているが、当然キグスタは生存しており、恐らくグリフィス王国の主要な役職についているのは間違いないと確信した。
「私達の祖国は既に滅ぼされて、ワウチ帝国に飲み込まれました。ですが、そのワウチ帝国を完膚なきまでに叩き潰して下さったキグスタ様の元に伺いたいのです」
ワウチ帝国の皇帝ナバルの降伏宣言、そしてグリフィス王国の勝利宣言の際に全ての事情が明らかにされ、キグスタはワウチ帝国に吸収されてしまった国家の人々には、大英雄として崇められていた。
そのキグスタが、ソレッド地区を統治する事もグリフィス国王から告知されたため、移住者が絶えないのだ。
だが、ワウチ帝国とグリフィス王国を最短距離で進むには、このナルバ村に向かう必要があるのだが、ある冒険者の調査により、ナルバ村周辺には凶悪な魔獣がいるので、避けるようにワウチ帝国側にお触れが出ていた。
この時点で、既にワウチ帝国側ではかなりの粛清が行われており、当然皇帝や王族、貴族、そしてカンザはグリフィス王国に奴隷として連れられた後だ。
そのため、冒険者活動も活発になり、多種多様な情報が行き交う様になっていたのだ。
「やっぱりキグスタか……」
既にキグスタの本当の力を理解しているホール達は、納得するしかなかった。
「それで、私達はソレッド地区に向かっている最中なのです。それでは、先を急ぎますので、失礼します」
ワウチ帝国側からきた面々は、これから幸せな生活をできると言う期待に満ちた目で、弾むように元ソレッド王国の王都、今はソレッド地区となった場所に向かっていった。
その後ろ姿を、三人は悲しく、そして羨ましい、何とも言えない気持ちで見送るしかできなかった。
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