カンザ一行への軽い嫌がらせ
まだまだ 続きます。
「今回の悪魔討伐の秘策である魔道具。それを起動していない状態でボスの部屋に持ち込まれてしまったのだ。ボスの部屋に入ってから起動しては到底間に合わないから気を付けるように何度も念を押しておいたはずだったんだが。更に悪いことに、ボス部屋の前で俺達は武具の最終点検を行っていた。ダンジョン内で聖武具のメンテナンスはキグスタに一任していたため、全員命綱と言える聖武具をあいつに渡していたのだ」
ギルドマスターは、そこでキグスタがここにいない事にようやく気が付いたようだ。
その様子を確認したカンザは、更に芝居のように声を大きくして語りだす。
「俺達は荷物持ちのあいつを信頼していたんだ。だが、あの程度の奴では前回悪魔と対峙した時の恐怖を克服することはできなかった。俺達と同じく、容易に克服できると思ってしまった俺のミスだ」
……「流石は選抜メンバー」……「悪魔と対峙してあの精神力か」……「すると聖武具を持っていないのは……そう言う事だったのか」……
周りにいる冒険者達の賞賛の声を聞いて益々気分が良くなるカンザ。
もちろん残りのパーティーメンバーも機嫌がよくなっている。
仲間を一人失ったパーティーでこんなにも機嫌が良くなること自体がおかしいのだが、それに気が付いているのは精霊王だけだ。
「俺達は唖然としてしまった。扉が閉じかけてようやく我に戻った俺達は慌ててキグスタを救出すべく悪魔と対峙しようとしたが、既に遅く扉は閉まってしまったのだ」
「ホントバカみたい。よくもまぁ。冒険者辞めて吟遊詩人にでもなった方が良いんじゃないかしら」
精霊王の言葉は、カンザとパーティーメンバーには聞こえたようだ。
いや、精霊王が力を使って彼らだけに聞こえるようにしていたのだ。
カンザ一行は憎悪の目で精霊王を睨みつけるが、精霊王にそんな事をしても何の恐怖も与えられない。
そしてその行為を見たギルドマスターと冒険者達は不思議そうな顔をしている。
精霊王の言葉が聞こえていないのだから、カンザ一行が突然何にもしていない受付を睨みつけている状態と認識している。
不思議そうにしつつも、ギルドマスターが話しかける。
「カンザ様、そうするとキグスタ様は……」
「ん?あぁそう言う事だ。荷物持ちとして優秀だったキグスタは死んだ。俺達の秘蔵の魔道具も既に悪魔に破壊されているだろうし、聖武具も奴らの手に渡ってしまったと見て間違いない。あの魔道具は二度と手に入れることはできない。あれさえあれば悪魔討伐は容易だったのだが……実際の所、あの悪魔との戦闘は俺達では相性が悪すぎる。あの魔道具さえあればよかったのだが……苦渋の決断だが、あのダンジョンの攻略は相性の良い他の選抜パーティーに引き継いでおく」
……「そうだったのか」……「確かに相性はあるな」……「そんな中でも討伐しようと秘蔵の魔道具を持ちだしてくれるとは」……
再びの賞賛に満足顔のカンザ一行。
これで彼らはカンザの思惑通り、必死で悪魔を討伐しようとした英雄、キグスタはその英雄の邪魔をした荷物持ちと言う構図が完全に出来上がったのだ。
更に、あの悪魔と二度と対峙しなくても良いような話も聞かせている。
逃亡ではなく相性が悪すぎるので他のメンバーに任せる……という事だ。
全てがうまく行ったと思っているカンザ一行は、一旦この場を後にすることにしたようだ。
「これで報告は終わりだギルドマスター。夜遅くに済まなかったな」
「いえ、とんでもありません。報告ありがとうございました」
ギルドマスターの一礼を見たカンザ一行は、ギルドを出て高級宿に向かった。
彼ら選抜メンバーは国家から補助金が出る為に、贅沢三昧なのだ。
国家としても、国だけではなく世界の命運がかかっているので、少々の贅沢は大目に見ている。
宿に戻ったカンザ一行。
即座にキグスタの部屋……もちろんカンザ達と比べると相当ランクの下がった部屋の予約をキャンセルし、自分たちの部屋に戻る。
その後、食堂に移動してお酒を飲みつつ談笑する。
カンザを除くメンバーは、旧知の仲である仲間が死んだとは思えない程の行動だ。
「いや~流石はカンザだ。あれほどうまく話せるとは思っていなかった」
<拳聖>であるホールが、見事なまでに嘘を貫き通したカンザを賞賛する。
「当然でしょ?私のカンザなんだから。あんな荷物持ちの為にここまで考えさせられたのは癪だけど、流石はカンザね」
もちろん<剣聖>のフラウも続く。
そうすると、残りは<魔聖>のリルーナだ。
「ええ、最近は本当に何の力にもならずに邪魔でしたから。私達の不利益にしかならない人にはふさわしい最後でしょう。でもカンザは凄いですね。これで私達は大手を振って王都に行けます」
普通はダンジョンを攻略しない限り次の町に行くことはできない。
ましてや余程のトラブルでないと王都に戻るなど有り得ない。
例外としては、攻略する必要があるダンジョンがない場合だが、一旦攻略を開始したダンジョンを放置して移動するなど認められていないのだ。
だが、今回はカンザは相性と言う事にして他のパーティーに押し付けることにしたのだ。
何もしないで押し付けると、自分たちの評判が下がる上に他のパーティーに借りができてしまう。
だが、秘蔵の魔道具を使用して確実に討伐しようとした嘘の実績を広めたおかげで、借りができない状態で他のパーティーに攻略の任務を移譲することができるはずなのだ。
当然王都に戻り国王に状況を説明する必要があるが、問題ないと思っている。
もちろん彼らは聖武具を新たに手にする必要があるので、王都に戻るつもりでいた。
ついでに、道中にある辺境の村であるナルバにも寄って、キグスタの死を伝えようという事になっている。
これでキグスタは、カンザのパーティー一行の魔道具だけではなく聖武具すら無駄にさせた荷物持ちと言う位置付けが確定した。
そんな話は、万が一があってはいけないので<魔聖>のスキルを使ってリルーナが結界を張っている中で進められているが、当然超常の存在達にはそんなものは関係がない。
ギルドでの茶番劇を目の前で見させられた精霊王は、怒りのあまり幹部全員に情報を共有したため、存在を認識できない状態で主神であるヨハン以外がこの場に勢揃いしている。
ヨハンは、ダンジョン内にあるキグスタの近くで控えている。
これは、安全の為もあるし、至高の存在である主キグスタの世話ができるようにしているのだ。
高級宿に図らずも集合してしまった超常の存在達。
今すぐにこの世の者とは思えないような苦痛を永遠に与えたい気になるが、キグスタからは”放っておくように”言われてしまっている。
主の命に逆らうわけにはいかないのでグッと堪えてはいるのだが、何もしないでいるほど感情を抑え込めているわけでもなかった。
「おいアクト!あいつらの足元に全員軽い切り傷がある。ポーションや回復魔法が効かない状態にして暫く痛みを与えることはできるか?」
普段はこのような言葉使いはしない精霊神のハルムが、怒りのあまりに少々粗い言葉使いで死神であるアクトに聞いている。
「もちろんでござるよ。某もそうしようと思っていたでござる。腕がなりますな」
超常の者達の思いは一致している……




