始まりの時
お読み頂きましてありがとうございます。
僕の名前はキグスタ。この辺境の小さな村ナルバに住んでいる。僕のお父さんとお母さんは冒険者だ。
もちろん周りの皆も結構な人数が冒険者で、お互いに助け合って生きているって言っていた。
お父さんは<剣術>、お母さんは<魔術>っていうスキルがあることを十歳の神託の儀で教えてもらったらしい。
スキルは、その名の通りその人に適した能力で、それに関連する技術や知識の習得、つまりスキルの上達が圧倒的に早いみたい。
体を動かすことがあまり得意ではない僕は、フーンっていう感じで父さん母さんの話を聞いていた。
ごめん、ウソでした。体を動かすことが苦手の間違いだった。
冒険者のお父さんとお母さんを見て育った僕は、いつかは両親のように活躍できると信じているんだ。
でも、冒険者ってとっても危険な職業なんだ。
この世界に蔓延っている魔獣と呼ばれる人族を襲う異形な存在、その魔獣を討伐して得られる素材や、稀にドロップするアイテムを換金して生活の糧にするのが主な仕事になっているので、命の危険がある。
ある日、この村に住んでいるとある夫婦が討伐に失敗して帰らぬ人になった。お父さんとお母さんの友人だったらしい。
突然、小さい赤ん坊を連れてきて、僕の妹だと言ったのを覚えている。
そう言う事だろう……
そして、今日は僕の神託の儀だ。今僕は十二歳なので少し遅めの神託の儀だけどね。
でも妹のフラウは丁度十歳だ。
それに一緒にこの村で育った近い年代の友達は、一緒に神託の儀を受ける。
神託の儀は司祭様が国から派遣されるんだけど、ここは田舎なので数年に一回しか来てもらうことができない。
なので、近い年齢の子供は一気に神託の儀をしてしまうという事みたいだ。
人には必ず一つスキルがあるので、もし幼い子供がスキルの判定ができなかった場合、数年後の神託の儀で再度スキル判定を行ってもらうことになっている。
持てるスキルは普通は一つだけ。ある意味運命の分かれ道だ。
中には<剣神>なんて言うものすごいスキルを授かったことがある人もいるってお父さんが言っていた。
それと、後からスキルが増えた人、元から複数持っている凄い人もまれにいるみたい。
周りの友達は希望を言い合っている。
「俺は<剣術>が欲しいな」
「私は<操術>。動物と仲良くしたいし!!」
「いや、<槍術>だよ」
何だか少なくとも体を動かす方向がいいみたい。
でも、僕達みたいにある程度大きくなっていると、得られているスキルが何か推測できてしまうケースがある。
例えば、妹のフラウ。血はつながっていない妹だけど、この子は間違いなく<剣術>を持っていると思う。
ある日、フラウは一本の木刀を僕に差し出しながら言ったんだ。
「お兄ちゃん、私運動が苦手なお兄ちゃんを守ってあげるね。でも、お母さんみたいには魔術はできそうにないので、お父さんみたいに剣術を磨こうと思うの。少しだけ手伝ってくれる?」
微笑ましい妹の行動にホンワカしながら、家の裏庭にやってきた。
もちろん僕は早く動くことができないので、木刀を両手に握りしめてフラウの剣撃を受けるだけだ。
でも、僅か三日目にして僕は彼女の剣撃を受け止められなくなってしまった。
そのせいで余ってしまった僕の持っていた木刀も持ち、両手に剣を持って巨木相手に修行を始めたんだ。
一か月もすると、フラウの剣の動きを目で追うことができなくなり、二か月目には木刀で巨木を倒してしまった。
さすがにお父さんお母さんも巨木が倒れる音で状況を確認し、この時点で二人共フラウが<剣術>のスキルを得ていることを確信していた。
いや、ひょっとしたら最上位のスキルである<剣神>かもしれないと話していたな。
スキルは、同系統であれば進化することもあるみたい。でも、本人の才能と絶え間ない修行を続けてようやく一つ進化する可能性がある……という感じで、もし進化すれば英雄になれるって。
元から進化している上位のスキルを得る人もいるみたいだけど、こっちは更に相当珍しいことで、発見されたら大騒ぎは確実で王都の調査が入るみたい。
そう言って、お父さんとお母さんは自分のステータスを僕に見せてくれたことがある。
小さいうちはまだ使えないらしいけど、必ず全員使えるようになる不思議な呪文、”ステータス”。
これを唱えると、自分のスキルの詳細を見ることができて、自分が認めれば他人にも見てもらうことができるって言ってた。
でも、自分の情報は簡単に人には見せちゃだめよ!!ってお母さんが注意してきたのはよく覚えている。
そうして迎えた 神託の儀。周りの友達は得られたスキルに一喜一憂しているみたいだけど、これまでに驚くようなスキルは出ていない。
いよいよフラウの番になり、司祭様の前に行く妹。
「お兄ちゃん、私、お兄ちゃんを守るために絶対<剣術>を貰ってくるからね!」
「ありがとう。でもスキルは何でも良いと思うぞ!」
「ダメ。お兄ちゃんを守れるスキルが必要なの」
なんて嬉しい事を言いながら司祭様の前に到着した。
でも、フラウは絶対<剣術>を持っている。あの動きを見ると間違いない。
やがて司祭様が大声でスキルを紹介する。
正直これはやめてほしいと思っている。
お父さんとお母さんも司祭様のこの行動にはあまりいい顔をしていない。
特にお母さんなんかは、自分の情報を他人に安易に知られる事を極度に嫌うためだ。
お父さんとお母さんの時はもう少し大きい街に自分から出向いて、個室でスキルを教えてもらったみたいだから、尚更不満に思うんだろうね。
司祭様はフラウのスキルをこう紹介した。
「素晴らしいです。この子は<剣聖>のスキルを持っています。この時点で上位スキルであれば、最上位スキルである<剣神>も夢ではないでしょう。規定により、この件は王都に報告させていただきます。おめでとう」
やっぱりフラウは上位のスキルを持っていた。
今回の信託の儀で初めて出た上位スキル。会場が一気に沸き立った。
「お兄ちゃん、私やったよ!これでお兄ちゃんを守ってあげられるね」
大声で言われるとかなり恥ずかしい。妹に守られる兄って……
「良かったなフラウ!頑張ってたもんな。おめでとう」
「うん、ありがとうお兄ちゃん」
輝く笑顔のフラウの上位スキルが確認されたことをきっかけに、同じ村で育った二人にも上位スキルがある事が確認できた。
僕と仲良くしている友達だ。
少しやんちゃなホールは<拳聖>、おしとやかなリルーナは<魔聖>のスキルを得ていた。
そして、この中で一番年齢の高い僕が最後の神託の儀の対象者。
実は僕の持つスキルは<操術>じゃないかと思っている。
何故かって?
運動もろくにできない、特に何かを鑑定できるわけでもない、炊事洗濯がうまくなったわけでもない。
この年になれば既にスキルは得ているはずなので、何かしらの変化があってもおかしくないのだ。
そして、その変化とは……僕の肩にいるスライムを見れば一目瞭然だ。
ある日、本当に突然目の前に現れた。
なんのスキルも持たない子供でも安全に倒すことができると言われているスライムなので、あせることはなかったけれど……
それ以降、スライムは僕の肩がお気に入りらしく、よほどの事がないとこの場所から動くことはないんだ。
僕の頭くらいの大きさのスライムなんだ。
肩に乗ると僕の為かはわからないけど大きさがとても小さくなっていくんで、何かを見る時の邪魔にもならないし、重さも感じない。
むしろ、体の動きが良くなっている気さえするんだ。
そうそう、何故かお風呂の時だけは元の大きさに戻って肩から降りていて、一緒にお風呂に入っているよ。本当に可愛い。
で、つまりこれって、<操術>のスキルが発動したんじゃないかと思っているんだ。
皆と同じように僕に手をかざした後に、司祭様は眉を寄せた。
そして、僕にだけ二回目の手をかざした。
司祭様は、少し首を傾けると、僕のスキルを公表した。