鬼も福ある
「節分は嫌いなんだ」
2月3日。世の中的には節分と言われる行事が行われていて、いつものようにスルーしようとしていると、鬼である彼女がそんなこと言いだしていた。
彼女に出会ってから、色々なことが起きて……、このマンションの一室に一緒に住むようになってから彼女について知りはしたがまさか漫画のように節分も嫌いというのは初めてしった。
しかし、突然何を言い出すのか。そう持って様子をうかがうと、じっとソファに体育座りをして、窓から入ってくる逆光も気にせずにテレビに熱視線を送っていた。テレビには恵方巻が映っていて、節分の特集をしているらしい。
恵方巻を食べたいのだろうか。
「豆をぶつけられるから?」
「それもある。が、ちょっと違う」
「違うんだ」
「そもそも、鬼が悪いものと決めつけているのが嫌だ」
「そっちなんだ」
「そっち」
「でも、鬼って元々悪いものに使う名称だったと思うし、ある程度は仕方ないんじゃないかな」
「むう……一理ある。だが、私は何も悪いことはしていないぞ」
「はいはい。分かってます。恵方巻食べたい?」
「食べたい! ……ちがう!」
「違うんだ……」
「ち、違わない。そうじゃなくて――」
「じゃあ買ってあるので食べましょう。本当は切り分けないらしいんですが、僕が無理なので切り分けますね」
「う、うむ。……じゃなくて話を!」
まだ話足りなさそうにしている彼女の言葉を背中で聞き流しながら、彼女が食べたいものを買ってある冷蔵庫へと向かう。
「はいはい、うちでは豆はまかないので安心してください。虐められたいのなら話は別ですけど」
「そんなわけないだろう!」
思った通りの反応を返してくれる彼女に噴き出しそうになりながらも恵方巻の準備をする。
残念ながら、うちで節分を行う習慣はない。
鬼も福も居てくれるのだ。わざわざ祓う必要はないからね。