プロローグ
かくも恐ろしき女の園、お水の世界。
頭の先から爪の先までピッカピカに磨き上げ、人より目立ってなんぼ。
携帯電話にイヤホン挿して、本日のカモにご機嫌伺いしながら化粧。
悪い頭に詰めるもん詰めれるだけ詰め込んで、いざ!
地味にバスで出勤。
お客さんからの貢物で大して嬉しくなかったiPodが、バスの中で以外にも重宝している。
「Don't Let me be MisUnderstood/悲しき願い」
飽きずに何度聴いたことか。
店についたら前日までの売り上げ表をチェックする。
性悪のあの女より頭一個出てるだけでホッとする。小さくてくだらない競争。
この場所が全ての今はこれしか見えない。
タイムカードを押して同伴に出かける。
ゲームスタート。
あらかじめ「美味しいラーメンが食べたい」と言っておいた。
サラリーマンで営業やってりゃ誰だってオススメのラーメン屋の一つや二つある。
得意げなここのラーメンがたまらなく旨い!なんてうんちくに、100万ドルの笑顔で頷く。
「本当にラーメンなんかでよかったの?」と言わせればコッチのもの。
用意しておいたQ&A、私のマニュアル通りに動いてくれてありがとう。
あなたもいずれ麻痺し、1ヵ月後には私と同伴でアワビを食べる。
同伴、店での接客、アフター。
毎日この繰り返し。
お酒にはめっぽう強くなり、水商売に慣れ、散々悩まされた女同士の人間関係なんかは糞のように余裕を持てる程私は売れ、強く、狡くなった。
恋愛中毒で仕事をそこそこに、彼氏第一主義の同僚の話はつまらなかった。
いかに客を捕るか、いかに金を貯めるか。と参考になるような話は誰もしていなかった。
仕事が終わった後ホストに行く組は、見るからにアホだった。
私はとにかく働いた。
とにかくお客さんに対してマメで、都合を合わせて早い日は朝からでも動いた。
ゴルフも始めたし、着物も買った。
男はいらなかった。
仕事で嫌って程遊ぶ男の姿を見て幻滅していたし、私自身も擦れに擦れているのでマトモな男は私のような女をわざわざ選ばないだろうとわかってもいた。
実際、仕事以外で寄ってくる男は昔別れたろくでなしや、下半身に馬鹿正直なだけの変態しかいなかった。
それでも全く淋しくないという訳でもなく、一度だけ、男を買った事がある。