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城下町と土塊人形  作者: 和銅
7/8

ゴーレム嫌いの幼女

 

 朝食は、毒舌金髪幼女――もとい、フレアが作ってくれていたらしい。お粥みたいな料理に、丸くてオレンジぐらいの大きさの黄色い果物と、硬めに焼いたパイっぽいもので構成されていた。お粥は見た目からリゾットのような洋風料理だと思っていたが、意外と和風な味付けに近くて食べやすかった。


 因みに昨晩はシチューっぽいスープだった。入っていた野菜は食べた事がない食感だったが、肉の食感は変わらなかったのが印象的だったな。

 あ、異世界でも生き物を殺した肉なのは同じなんだなって――食事中にこれ以上はよそう。


「ところで、俺はしばらくここでお世話になってもいいか?急に来てしまって身一つだけど、何か俺にできることがあるなら手伝いたい」

「うーん、そうだったね」

「ゴーレムには何をさせる予定だったんだ?」

「ええと、物置の掃除とか、開発の手伝いをして貰おうと思っていたんだけど……」

 リトが申し訳無さそうな視線をこちらに向けた。

 うーん……ゴーレムを造ったはいいが、中身の俺が人間だと頼みづらいってことか?

「分かった、じゃあ今日は物置の掃除だな」

 開発の手伝いは流石に難しいかと思ったが、今はゴーレムの身体なんだし、意外といけるんじゃなかろうか。金属を加工する現場を生で見られるし、火花が散る所とか美しいかもしれないな。人間では出来ない角度からも観察出来そうだ。

 一応、家電の話もまだ出来る。粗方喋った気もしているが。


「でも、お客人にそんな事……」

「いや、そんなに気を遣わなくても大丈夫だ。客よりもゴーレム扱いの方が気楽だし」

「うう〜、分かった。じゃあイッセー君、お願いするよ」

 リトは若干不服そうな顔をしていたが、フレアの方を振り返ってニコッと笑った。

「フレアさんも手伝って貰えるかな」

「……分かりました」

 なんか間があったぞ。また怒られそうだな……。



 ******



 始めに目を覚ました物置の中は、改めて見ると色々な物が散乱していて、確かに結構な掃除が必要そうだった。

「よし、やるか」

 と言ったはいいが、部屋の隅に寄せてあるガラクタ達を動かすのは一筋縄ではいかなそうだ。これを一人でやるのはかなり大変そうだし、リトが遠慮していたのはそういう意味だったのかもしれないな。

「突っ立っていないで、早めに終わらせるわよ。お馬鹿ゴーレム」

 相変わらず先輩が冷たい――と思っていたら、フレアが冷蔵庫サイズの魔工具を軽々と持ち上げた。

「すっげぇ……その大きさd」

 思わず心の声が漏れてしまったが――全部言い終わらないうちにヒュッと光弾が頭の上を掠めていった。

 気を付けよう……いつか殺されそうだ。


 リトにある程度必要な物の確認をしてから、床に散らばったり崩れたりした設計図やら資料やらを纏め、床を綺麗に掃いて汚れていた箇所を布で拭き取っていると、あっという間に時間が経っていた。

 フレアは魔法が得意らしく、重い魔工具も簡単に持ち上がる。しかも慣れているのか手際がよく、素早く仕事を熟していた。言い出したのは俺なのに、俺よりもフレアの方が働いていて若干申し訳なくなった。

 俺も幾つか魔道具を運んだが……流石に冷蔵庫サイズのヤツは持ち上がらなかった。非力と笑え、俺は肉体派じゃないんだ……幼女(年上)に負けたって悔しくはないさ……うん。


「ところで先輩」

 大きな魔工具の裏側にあって埃塗れになっていた窓を磨きながら、本日顔を合わせたばかりの先輩に声を掛ける。先輩はなかなか窓の上の方には手が届ないようで、水晶玉にコードが付いた謎の魔工具らしきものを磨いていた。

「煩いわね。馬鹿ゴーレム」

「まだ何も言ってないぞ……!」

「ふん。そうやって人間の様に振る舞うのはやめなさい。どうせ、前の主人の命令か何かで動いているんでしょう」

「な……」

 なるほど、と言いかけた。

 確かに、傍から見れば中身は人間だと主張しているが、身体はゴーレムだ。本当に人間かどうかも怪しい。そう言えと命じられたスパイの可能性だって否定できない。

 そもそも、俺が俺自身だと証明をすることすら不可能に等しい。こんな異世界じゃ特にだ。家族も居なければ、戸籍もない。人間として生きてきた証は何一つない。こんな世界で、今考えている俺は本当に自分なのかなんて、最早俺にも全く分からない。


 偽の記憶を植え付けられたタダのゴーレムだったらどうしよう。否定できん。わるいゴーレムじゃないよ!とでも言うべきか。



「先輩はゴーレムが苦手なのか?」


 なんと言うべきか迷った。先輩の謎の水晶玉を磨く手が震えていたのだ。苦手というか、あからさまに怯えているようにさえ見える。


「苦手……な訳ないでしょう。ゴーレム如きが」

「じゃあ怖いとか……?」

「変わらないわよ。私は、人形が大嫌いなの。見るのも嫌だわ」


 そう言って先輩はまたツンと顔を背けた。水晶玉を磨く布雑巾は止まっているが、先輩の手の震えも止まっている。


「そうか。なら、良かった」

「何にも良くないわよ、お馬鹿ゴーレム。窓拭きの手が止まってるわ。さっきバケツをひっくり返してあちこちを汚した分、きっちり働いてもらうから」

「そ、それは本当すんません…」

 そこは本当に言い訳のしようもなかった。マジでごめん。

 慌てて手を動かした俺を見て、先輩はふ、と小さな溜息をついてから、元の作業に戻った。

 薄暗い室内で、曇りガラスのような窓から差し込む淡い光が、小さな埃を静かに照らす。


「……」

「……父はね」


 と、先輩は言った。水晶玉を覗きながら、ぽつりと独り言のように。


「…人形に殺されたの。それが、どうしようもなく嫌なだけ」


 その、感情を乗せないようできる限りぶっきらぼうに告げられたらしいそれに、俺はごめん、としか言えなかった。

 気の利いた返しをできなかったことが悔やまれた。

 それをフレア先輩が怒って、窓ガラスを割らない適切な角度で足払いしてきたので、俺は綺麗に床へ頭を打った。

 受け身はとれなかった。

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