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手羽先

味噌カツの店を出た僕たちは間髪開けずに手羽先の店へ向かった。


ビルを出て、駅の方へ戻る。


手羽先の店は地下街にあった。


名古屋旅行の最後のご飯だった。


「なぁ、お前手羽先くらいは食べろよ」


友人の1人が話しかけてくる。


「わかってるよ。手羽先は2本くらいなら食べるよ」


手羽先も諦めてしまったら、なんのために名古屋に来たのかいよいよわからなくなる。


名古屋飯を食べにきたのだ。


ひつまぶしだけで終わらせる訳にはいかない。

僕たちは店につく。


店内に入らずお持ち帰りで手羽先を頼んだ。


なんだかんだ、時間は昼の三時頃だった。


ここから大阪に帰れば夜の7時頃。


道の混み具合でさらに時間がかかるかもしれない。


なので、少しだけ急いでいたのだ。


1人2本手羽先を頼んだ。


そして、僕たちは地下街を出る。


車を止めているパーキングエリアに向かった。


「手羽先どこで食べるん?」


僕は尋ねた。


「車の中じゃ食べられないから、パーキングの裏の公園でさっさと食べようぜ」


確かに今からじゃそれしかないか。


帰り道を歩いていると、いよいよ名古屋旅行が終わるという実感が湧いてくる。


最後の名古屋飯。


名古屋に来てよかった、と思わせてくれるような最後にしてくれよ、と僕は祈った。


公園につく。


滑り台が1つしかない、ほとんど空き地の公園だった。


僕たちは公園を取り囲む縁の上に座る。


公園の中では1人のおじちゃんが、ベンチに座り、ハトにエサをあげていた。


おじちゃんの周りには何十羽のハトがエサを取り合っていた。


「よし、さっさと食うぞ」


友人が言って手羽先の箱を開ける。


香ばしいにおいがした。


僕は息を飲んだ。


これはきっと美味しいぞ。


友人が待ちきれないと手羽先を食べ始める。


僕も追って、手羽先を手に取ろうとした。


その時だった。


「うわ!」


思わず声が出た。


先ほどまでおじいちゃんの周りにいたハトがこちらに来たのだ。


人馴れしているハトは、僕や友人の周りを平気でうろつき始めた。


僕は手羽先どころではなくなった。


立ち上がり、その場から少し距離をとった。


すると、友人が怒ったように言うのだ。


「おいお前何やってんだよ。さっさと食べろよ」


「いや、でもハトが……」


「そんなの気にすんなよ」


友人たちは、帰る時間を気にして慌てて手羽先を食べていた。


なんとも衝撃的な光景だった。


友人たちが落とす手羽先の食べかすをハトたちは見逃すことなく食べている。


共食いだ。


僕は一気に食べる気が失せてしまった。


どうしてだろう。


どうして、友人たちはこの状況でも食べることが出来るのだろうか。


不思議で仕方なかった。


鳥を気にせず鳥を食べている人間と鳥を食べている鳥。


なんなんだこの光景は。


僕は結局、友人たちが食べ終わるまでその光景を眺め続けた。


そのあと、大阪に帰った。


名古屋旅行は長くもあり、短くもあった。


苦しいこともあったし、悲しいこともあった。


ただ1つ言えるのは、今回の旅は失敗であったということだった。


僕の貴重なゴールデンウィークの1日はこのようにして閉じていったのだった。

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