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名古屋ひつまぶし編

名古屋。


美味しいものがいっぱいある街、名古屋。


5月2日。


僕達が名古屋旅行をした理由はおいしいご飯を食べに行くことだった。


名古屋飯はさまざまある。


その中で僕達は3つ絞って食べ歩きをしようとなった。


ひつまぶし


味噌カツ


手羽先


この3つだ。


旅行とはいえみんな翌日に予定が入っていたため日帰りだった。


観光はなし。


食うだけ食って帰ってくる。


そんな忙しい旅行が始まった。









僕達は朝の6時に集まった。


正確に言うと僕以外の人間は6時に集まった。


僕は寝坊した。


飲みすぎてしまった……。


言い訳にならないが、前日ほかの友人らと飲み会に行っていたため起きれなかったのだ。


30分ほど遅れて、僕はみんなと合流する。


「お前いつも旅行の時遅れるよな!」


運転席に座る友人Nが怒る。


「ごめん」


「このままやったら放っていくところやったぞ」


「…ごめん」


僕は謝るしかなかった。


旅行メンバーは男5人だった。


みんな中学校の頃からの友人だ。


僕が寝坊したことに少しは怒っているが、またかというような反応がほとんどで真剣に怒られはしなかった。


僕達は車で名古屋へ向かった。


大阪から名古屋へは3時間ほどかかる。


それもゴールデンウィークということもあり、渋滞が予想された。


今回の旅行は長時間の運転が想定される。


なので、旅行メンバー全員が1度は運転をしなければならない。


僕は正直車の運転をしたくない。


早いスピードで走っていると、怖くて胸が締め付けられるような感覚がする。


それに、気疲れして体力を奪われる。


友人の話の輪にも入っていけない。


だから、僕は運転が嫌いだった。


それに付け加えてもう1つ嫌なことがある。


「おい、わかってるな。今回の旅行は酒抜きだぞ」


前日の事前打ち合わせで、グループ通話をしている時の会話だ。


「嘘! ビール飲んだらあかんの?」


僕は驚きのあまり声を出した。


「あかんに決まってるやろ! みんな車運転するのに!」


「何のために名古屋行くのさ! じゃあノンアルコールならいいやろ」


「名古屋旅行は食べ物のためや! 後、ノンアルコールも禁止する」


「えー」


それから僕は散々、近鉄電車で名古屋へ行こうと頼み込んだのに結局意見が通ることは無かった。












大阪を出るまでは渋滞に引っかかったりしていた。


しかし、大阪を抜けてしまえば道路はすいており、そこからは予定の時間で名古屋へ行くことが出来た。


時間は午前11時だった。


僕らはパーキングに車を止めて、名古屋駅へ向かった。


第1の飯。


最初に食べるご飯は、そう。


ひつまぶしだった。


名古屋駅内においしいお店があるということで、そこへ向かう。


散々文句を言ってきたがおいしいものが食べられると思うとワクワクしてきた。


駅の中に入ってから友人の1人が


「ここだよ、ここ」


と、店の方を指さす。


僕は思わず


「え!?」


と、声が出た。


なにせ、店の外に長蛇の列ができていたからだ。


この列の長さはUSJのジェットコースターでしか見たことがない。


僕は友人に尋ねた。


「これ並ぶの?」


「そうだよ。行くぞ」


3、4時間かけて名古屋へ来た。


ようやく食べ物にありつけると思った。


しかし、現在、長蛇の列の最後尾。


美味しい食べ物を食べるってこういうことなのか。


辛い思いを重ねないとありつけないのか。


周りのみんなは普通に列に並んでいたけど、僕だけなんだか泣きそうになった。


「おい、しかもトイレかよ」


そうなのである待機列はトイレの前にある。


だから、トイレに行く人は列を避けなければ入れない。


「お前うるさいよ、文句言うな」


「でもよ〜」


こんな悲しいことがあるだろうか。


ただでさえ行列に嫌気がさしているのに、トイレに行く人たちに睨まれないといけないという苦しみ。


僕はなにも悪いことをしていないのに、まるで悪者のような視線を浴びせられる。


ひつまぶしってこんな思いをしないとたどり着けないものだったのか。


腹を空かせた友人が隣の店のメニューを見ながら言う。


「なぁ、俺たちもうオムライスでよくないか?」


すると、ほかの友人が言い返すのだ。


「ここまで来て諦めるのか。もう少しだ。我慢だ」


「でもよ、オムライス美味しそうだぜ。なぁもういいだろう」


「ダメだ。この先に行けば美味しいひつまぶしを食べれるんだ。もう少しの我慢だ。もう少し!」


なんだこのコントは、砂漠で遭難している人たちか。


それから、三十分ほど並んで僕たちは店の中に入っていった。


やっと座れた。


ふっと、一息つく。


なんだかもう家に帰りたいような気分だった。


ひつまぶしは並サイズとミニサイズがあった。


僕たちはみんなミニサイズを頼んだ。


なぜならこの次に味噌カツを食べに行って、手羽先も食べるからだ。


ひつまぶしはすぐに来た。


「お待ちしました。ひつまぶしのミニです」


「え!」


僕は目を丸くした。


意外だったのは、その大きさだった。


ミニのはずなのに桶で来た。


「いや、これは大きいぞ」


そんな僕に腹の減っている友人たちは言うのだ。


「あほかこれくらいは食べれるやろう。さっさと食べろ」


話も聞いてくれなかった。


僕は桶の蓋を開けた。


香ばしいにおいがした。


うなぎが一面に敷き詰められていてご飯が見えない。


箸を割ってひつまぶしをすくう。


少し炙ってあるうなぎ。


そこに濃い色のタレがかかっている。


うなぎの下のご飯にそのタレが滴っていた。


待ちに待っていた瞬間だ。


僕はこれを食べに名古屋に来たのだ。


ひつまぶしを口にゆっくりと持っていった。


これは………!!


口の中いっぱいにうなぎの美味しさが広がる。


タレは思ったよりも濃くなく、それでいてしっかり味があった。


ご飯の固さもちょうどいい。


格別……!


これだけで名古屋に来たかいがあった!


箸が止まらなかった。


ひつまぶしの大きさを気にしていた自分がバカのようだった。


半分まで食べたところで友人がポットに手を伸ばした。


お茶のポットとはまた違う形をしている。


「なにそれ」


「これは出汁だよ。上からかけたら味が変わるんだ。お前もやってみろよ」


言われるがままに僕はポットを手に取り、茶碗に取ったひつまぶしに出汁をかけてみた。


白く輝いた出汁がひつまぶしにかかる。


かければかけるほど、タレのにおいが薄まっていくのがわかる。


なんだかお茶漬けみたいだ。


僕は不安だった。


あれだけ美味しかったひつまぶしに出汁をかける。


余計なことをして本来の良さを消してしまわないだろうか。


茶碗の半分まで入れて、箸で軽くかき混ぜる。


うなぎの油が出汁の中に浮いていて、白かった出汁がタレと混ざって少し色がついていた。


僕はそれを口の中へ持っていった。


「うんまー!」


予想外の美味しさに思わず声が出た。


先ほどまでのガツンとした美味しさはない。


しかし、先ほどのうまさを出汁がかかること

でまとまっている。


まとまっているだけではない。


うなぎも出汁がかかることで柔らかくなって、ほどけている。


かける前と違い、食べる度に必ずうなぎが口の中に入ってきた。


ひつまぶし


なんという食べ物だ。


1回食べるだけで何度も楽しめる!


極上の食べ物だ!


僕達は30分以上並んでおきながら10分ほどで店を出た。


「おいしかったな」


「あれはやばいな」


「次名古屋来たらまた食べたいわ」


口々に感想を告げている中、僕は違う思いだった。


「やばい…お腹いっぱい」


そうなのである。


僕は少食なのである。


「お前何しに来たんだよ!」


「そうだよ。それはあかん!」


「そんなこと言われても…」


怒られたって何をしたってお腹は減らない。


残るは手羽先と味噌カツ。


地獄の名古屋旅は始まったばかりだった。


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