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ネモフィラ祭り

ゴールデンウィーク前からさまざまな予定を入れていた。


その中の一つが撮影会だった。


僕は社会人の写真サークルに入っている。


今まで写真に興味があったわけではない。


友人がサークルを立ち上げたので、面白そうだからと入れてもらっただけだ。


そして、今回のゴールデンウィークにサークル初のイベント、撮影会が入っていたのだった。


目的地は舞洲のネモフィラ祭り。


写真の撮り方もわからなければ、ネモフィラという花も聞いたことがない。


友達と遊べればそれでいいや、と軽い気持ちで僕は参加したのだった。




朝の九時に地元の駅でサークルを立ち上げた友人と合流した。


その友人の名前はTという。


小学校からの知り合いで、社会人になった今でもよく遊んでいる仲のいい友人だった。


会って早々、Tは言うのだった。


「やばい。緊張するんだけど」


「サークルの主催ってやっぱり緊張するものなの」


「そりゃあそうやろう。撮影会の場所を考えてメンバーに連絡して、出欠をとって、いろいろ忙しいんやぞ」


Tは少し怒ったように言った。


珍しいな、と思った。


これだけ緊張しているTはあまり見たことがない。


その緊張は服装や格好にも現れていた。


真っ白のシャツに真新しいジーパン。


髪の毛もワックスで固めている。


きっかりとした格好で来ているのだった。


「えー、めっちゃしっかりした服で来てるやん」


「当たり前やろ。今日初めて会う人もいるんやぞ」


僕は友人と遊ぶだけの感覚だったので、ぼさぼさの髪に気を使っていない服装で来ていた。


僕たちは電車に乗って舞洲へ向かった。


写真サークルといってもTの大学時代の友人たちがほとんどだった。


そのメンバーのほとんどが僕の知り合いだ。


緊張することはない。


1時間半ほどで桜島駅に着いた。


そこからタクシーに乗って、舞洲へ行った。


僕は舞洲に来ることが初めてだった。


ゴールデンウィークということもあって、人が大勢いた。


ネモフィラ祭りの駐車場は行列ができている。


公園にはバーベキューをしている団体がいる。


カップルが歩いている。


みんなが、ゴールデンウィークを楽しんでいた。


僕たちはタクシーを下りた。


サークルのメンバーと合流する。


久しぶりに会う人も多く、テンションが上がった。


「久しぶり!」


「おう。あれ、写真とか撮れるんだっけ?」


「うん、まぁ」


僕は言葉を濁す。


相手は僕が写真など撮れないことをその返事で察したのだろう。


「まぁ頑張ればなんとかなるよ」


と、励ましてくれた。


「というかよくカメラ持ってたな」


「あぁ、買ったんだよ」


僕は平気で嘘をついた。


本当は姉貴に貸してもらっただけだった。


お金を払って、会場に入る。


正直のところ、メインは友達と喋ることで花などは興味がない。


期待もせず僕は会場に入っていった。


しかし、僕はその光景に目を奪われた。


紫色の花が丘全体を覆いつくしている。


奥には日に照らされてきらきらと光る海があって、そのコントラストは期待していなかった僕でさえ、魅了するものだった。


主催者のTはみんなのほうを振り返り言う。


「今から撮影会を行います。皆さん各自で撮っていただいて、この先の休憩所には三時ごろに集合してもらおうと思います。よろしくお願いします」


そうして、撮影会が始まった。


初めて参加するのでこういうものかと、少しだけ拍子抜けた。


みんなで動いてみんなで撮るのが撮影会だと思っていたからだ。


僕の気も知らず、ほかの人たちはさっさと花のある方向へ歩き始めた。


僕も突っ立っているだけではいかない。


手慣れないカメラを片手に、花を撮影し始めた。


写真を撮るなどスマートフォンでもできるんだから簡単だろうと、たかをくくっていた。


しかし、実際撮ってみるとブレるし、思ったような画にならなかった。


僕はTのところに近づいて行った。


「なぁ、いい画が撮れないんだけど」


「まぁそうだろうな。初めてなんだから仕方ないだろう。でも、一つだけそれっぽい写真を撮る方法があるよ」


「なにそれ」


初めから教えてくれ、と思った。


「近くで撮ったら案外画になるよ。だけど、被写体を一つに絞って撮ったら日の丸の画になっちゃうからダメだよ」


「どうして」


「図鑑みたいに見えるからだよ」


なんかコイツ写真家っぽいぞ。


僕は、素直に感心してしまった。


今までTのこのような姿を見ていなかった。


いつもふざけてばかりいる人間だと思っていた。


真剣に写真を語っていて、本当に大学時代写真部をやっていたんだなと、思った。


それから時間まで写真を撮り続けた。


とはいえ僕といえば花を撮ることに飽きてしまって、サークルメンバーを遠くから盗撮ばかりしていた。


盗撮してはそのメンバーに近づいて行って


「これ、お前だよ」


と写真を見せるという嫌らしい遊びをしていた。


時間になり、僕たちは休憩所に集まる。


みんな今日撮った写真を見せ合った。


「この写真はいい色をしているね」


「この写真はもっと遠くで撮ったほうがいいんじゃない」


「下からとったほうがきれいに映るんだね」


と、口々に話し始めた。


僕は途中から人間ばかり撮っていたので花の話になると入っていけなかった。


話がひと段落するとTが


「今日は皆さんありがとうございました。これで撮影会を終わります。次回も企画するので参加する人は参加してください」


そこでみんな解散になった。


Tの解散のあいさつにいい反応を返す人間が大半だった。


きっと次回もみんな参加するのだろう。


僕はもうお腹いっぱいだった。


僕には写真は似合わなかったというのが、その日知れた。


軽い気持ちで参加してしまったことを反省した。



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