ライブ
「所持金1万7千円」
フードフェスを後にした僕は、次なる目的地を考えていた。
今はフードフェスのように明確な目的地がない。
うーんどこへ行こうか。
僕はその時、思い出した。
悩んだ時に行けばなんでも揃っている町が一つだけあるじゃないか。
それは、なんばだった。
専門学校時代はよくなんばへ遊びに行っていた。
カラオケ、居酒屋、スポッチャ、メイドカフェ、オタロード、色々な場所に行った。
見慣れた町である。
電車を乗り継ぎ、なんばへ行く。
30分ほどでなんば駅に着いた。
その時、ふと思い立った。
そうだ、ゲームバーへ行こう!
今まで友人とゲームバーに行ったことはあるが1人で行く機会がなかった。
せっかくなんばに来たのだから寄ってみよう。
友人らと遊ぶ時も時間に困ったらゲームバーに行っていた。
僕はゲームバーへ向かうため歩き出した。
そこは、通い慣れた道のはずだった。
ところが、ここでも僕はやらかしてしまうのであった。
"方向音痴でゲームバーの位置がわからない"
駅からひっかけ橋の方にずっと歩いて、どこか路地を右に曲がるのは覚えている。
しかし、どの路地を曲がるかがわからなかったのだ。
ゴールデンウィーク最終日で、人がごったがえしている商店街。
僕はそこを、行ったり来たりして店を探した。
しかし、どこの路地に行ってもゲームバーの看板はなかった。
10分が経ち、20分が経ち、時間だけが過ぎていった。
ない…
ない……
ない…………!!
行き慣れた町が初めて来る町のような感覚がした。
その時、僕は自らが設けているルールが突然馬鹿らしくなってきた。
インターネットで地図を検索すれば駅から10分もせずに着くのだ。
このようなことがすごく無駄だと思える。
僕は、諦めてゲームバーの位置を調べた。
すると驚いた。
行きたかったゲームバーはアメ村の方にあった。
方向が全然違ったのである。
何やってんだ俺は。
自分自身に呆れる。
僕はアメ村の方へ向かっていった。
時間は昼過ぎだった。
僕はもう満足していた。
フードフェスに行って美味しいものを食べたし、ビールは美味しかったし、最終日に思い出を残すことが出来た。
目標の2万円は使えなかったが、これはこれでいいゴールデンウィークだったのかもしれない。
ゲームバーに向かう道中、僕は、もうゲームバーいいや、明日に備えて帰ろうと思った。
その時、ある橋に差し掛かった。
そこでは、路上ライブが行われていた。
「どうも僕たち山下達郎カバーのバンドです」
ボーカルが喋る。
僕は足を止めて、ライブを見た。
面白い構造のライブだった。
客席とステージの間に川が流れている。
客は柵に肘をつきステージを見ている。
ボーカルは川の向こうの客に歌を歌っている。
そして、何より面白かったのは、川に観光船が通る度に観客と出演者が手を振って挨拶しているところだった。
この光景がなんとも面白かった。
僕は客席の真ん中の階段に座り込み、ライブを見守った。
僕の周りは一回りも二回りも上のおじさんばかりだった。
みんなビール片手にライブを見守っている。
「じゃあ次の歌はdown town」
「おぉ!」
歓声が上がる。
僕も思わず
「おぉ!」
と、声が出た。
この曲は知っている。
それでも町は廻っているというアニメの主題歌だ。
僕はスマートフォンを取り出すと動画を撮り始めた。
観客のボルテージは上がっている。
ライブは盛り上がった。
しかし、気になることが1つある。
隣のおじさんが手を振ることだ。
僕はカメラを撮っている。
しかし、そんなことをお構いなしに、大きく振るのだ。
本当に邪魔だった。
固定してライブ映像を取りたいのに手が入ってしまうため、横にズレないといけない。
手を振っているおじさんは酔っていて気持ちよさそうに手を振っている。
そのような人に注意できなかった。
僕自身がおじさんの立場なら、酔っていて良い気分の中、注意などされたくない。
僕は我慢して撮影を続けた。
路上ライブは徐々に人が集まってきた。
僕の周りは人でいっぱいになった。
きっと、歌や演奏や演出に惹き付けられたのだろう。
僕は歌を聞きながらその人達のことを考えた。
この人たちはどうして足を止めてライブを見ているのだろう。
もしかすると、僕みたいにゴールデンウィーク最終日だから、なにかしないといけないと外に出てきた人達かもしれない。
そう思うとなんだか不思議と元気が出た。
そのあと、2曲ほど歌ってライブは終わった。
よし帰ろう。
明日から仕事だ。
「所持金1万6000円」
4000円しか使わない旅だったが、楽しい思い出になった。
次の連休はもっと有意義に過ごしていきたいと思う。
ゴールデンウィーク最終日編ー完ー