再会の言葉は
その日はお祭り騒ぎだった。
英雄の勝利とアンナの無事に、村の誰もが安堵し、喜び、喝采をあげた。
其を少し離れたところから、酒を飲みつつ空を見上げていた。
ゆらゆら揺れる久々の月に酔いながら、静かに瞼を閉じた。
その日、久しぶりに『夢』を見た。
見慣れないドレスを身に纏いはにかむ彼女の姿を。
新しい命を愛おしそうに見つめる彼女の姿を。
子供たちに囲まれて、幸せそうに笑う彼女の姿を。
子供たちが旅立ち、少しシワの増えた彼女の姿を。
そして、最期の時。彼女の唇が小さく動いた。
『───貴方のせいよ。』
目と目があった。彼女の綺麗な瞳が僕を見下ろしていた。「これも夢?」「夢じゃないよ。」そう告げる彼女は泣き出しそうで、笑顔だった。
「どうして……」
「どうしても。」
「だって、君は。」
「私は、貴方がいいの。」
つうと何かが溢れる。暖かくて冷たいそれは、僕と彼女が合わさる証だった。
「でも、僕は。…………何もできなかった。」
「うん」
「君が旅立つとき、止めることができなかった。」
「ガレスが怪我をして帰ってきたときも、何もしなかった。」
「偽物の勇者に君が囚われたと聞いたときも、僕は何も、しなかった。」
「…………僕は、」
君のとなりにいられないよ。言葉は空気に溶けていった。
「約束、したでしょ。帰ってきてから、伝えるって。」
優しく微笑む彼女が眩しくて、太陽のように眩しくて、僕は顔を隠した。
「私はね。ずっと、ずっと、空の向こうにいる人のことを思っていたの。」
その人はね、優しすぎるから。全部自分のせいって思ってるから。だから、帰って約束を告げるんだって。そう思って頑張ったの。
ポタ……ポタ……と雨が降り注いだ。太陽から溢れる雨は、温かくて……少し震えていた。
「ねぇ、愛しい人。愛してる。ずっと、貴方のことを愛してる。───だからね。」
そっと頬に手を添える。その手を愛おしそうに彼女は支えてくれた。
「僕も、僕も。愛してるよ。───僕でいいの?」
こんな、ちっぽけで無力で、君を止めなくて、助けれなかった、僕で──
彼女が笑う。そして、力強く、
「貴方がいいの。」
と言った。