称賛の声は、遥か彼方から
幾つもの春が過ぎ、幾つもの夏を見て、幾つもの秋を待ち、幾つもの冬が来た。
あれから、僕は何も出来ずに、ただ届く噂から、彼女が生きていることを確認していた。
村長の息子ガレスは、あの夜治療が間に合い一命を取り留めた。今では5人の子供に囲まれて、夫婦共々幸せに暮らしている。今度一番上の娘が結婚すると言って、男泣きをしていたのは、よく覚えている。
彼の妻は、彼が助かったあと、僕に謝罪をしようとした。でも、僕は其を断った。貴方が言うことは正しいと。あの夜のことは、彼は知らない。それでいいと思う。
彼女は、アンナは、偽物の勇者により囚われていたが、今は本当の英雄に助けられ、共に魔王城へ目指していると聞いた。そして、英雄とも仲が睦まじく、全てが終わったら結婚するのではないかとも、耳に流れ込んできた。
僕は、そうなるのかもしれないと思う。彼女はもう僕のことを忘れているだろう。行くことを止めなかった、僕を恨んでいるかもしれない。
止めなかった僕に、止める資格なんてないのだから。
空を見上げると、薄汚れていた雲が割れていくのが見えた。長らく閉ざされていた天の窓が開くように、太陽の光が雲の割れ目から溢れ、大地を輝かしていた。
「───────終った、のかな」
ボウと空を見上げていると、「アスラン」と呼ぶ声が聞こえた。ゆるりと振り返るとそこには、満面の笑みのガレスが立っていた。
遠くの喝采が、大地を揺らすのが見えたきがした。
「魔王が倒された。英雄の勝利だ!」
その笑顔が眩しくて、視線を反らした。
辺り一面に咲き誇る、スイカズラの花が一枚地面に堕ちていくのを見つめながら、「そうだね」と呟いた。