雨が突き刺さる日
その知らせが来たのは、どしゃ降りの雨が降る日だった。
ボロボロになったガレスが、荷物のように村長の家の前で捨てられていた。
それに気づいたのは、帰りを待っていた彼の妻だった。狂ったように哭くその声につられて、雨のなか村人たちが集まる。駆け寄ると、息も絶え絶えな、ガレスと視線が合わさった。その唇がゆっくりと動く。
『すまない』
世界が止まる音がした。
気づいたら、目の前に彼の妻がたっていた。いつも気丈にたち振る舞う彼女の顔は、涙と雨でぐじゃぐじゃになっていた。
じわじわとやって来る頬の痛みと、彼女の赤く染まった手を見て、叩かれたのだと気づく。のろのろと視線を合わせると、また彼女の瞳から涙が溢れていた。
「貴方のせいよ。貴方が、予知夢なんて見なければ……!貴方が、……貴方がぁ……」
崩れ落ちる、彼の妻。駆け寄る、彼の父。
「すまない。アスラン。今は……」
そう言う、彼の父に「いいえ、いいえ」とうわ言のように返していた、と後から教えられた。
気づいたらどうやって帰ったかもわからない、二人の家で踞っていた。
ガレスが大ケガを負って帰ってきた。
『すまない』というメッセージ。
つまり、それは。それは………
その日、夢を見た。
愛しい恋人。大切な彼女。アンナと結婚する夢を。
でも、それはどろどろと崩れて、花嫁のアンナは、あの勇者の手の中で。
『貴方のせいよ。』
そう口が動いたきがした。
それでも、僕は。
ぼくはなにもできない。
「僕に、力があれば。」
叶いもしない望みを吐き出して、瞼を閉じた。