夢見る村人
僕の名前は、アスラン。
どこにでもいる一介の村人だ。小さな村で、夏は野菜を、冬は薬を売って細々と暮らしている。
そんな僕には、ちょっとした特技を持っている。夢を見ること、だ。もちろん、ただの夢じゃないさ。予知夢。そう予知夢さ!……でもまぁ、一月に一回か二回、そう多く見ることはないんだけどね。内容も、一月後に大嵐が来るとか、今年は豊作とか、そんな感じの夢ばっか。村にとってはありがたい予知夢だけどね。
普通の夢と予知夢の夢の区別は分かりやすいんだ。予知夢の夢はどれも眩しくて歪んでいる、そして声が必ず聞こえる。あの声はきっと神さまなんだ。声も反響していて、なんだか不安定を全体的に纏っている。たぶん、確定した未来じゃないから、不安定なんだろうけど。
そして先日、また夢を見た。
僕には、アンナっていう恋人がいるんだ。かわいくて、優しくて、こんな僕と付き合ってくれてるなんて奇跡だと今でも思っている。
その子が予知夢に出てきた。今まで特定の誰かが予知夢に現れることがなかったから、一瞬予知夢じゃないんじゃないかと思った。でも、それは予知夢だった。声が夢から背くことを赦してくれなかった。
半年後、世界を調律するため≪共通の敵≫が産まれる。そして、それを倒すために異世界より″英雄″が参る。七人の聖人を連れ、彼の者は≪共通の敵≫を討ち滅ぼさん。
声はそう語っていた。
≪共通の敵≫というのは、魔王と呼ばれる、魔族の長のこと。魔族は、この世のすべてを負を背負わされた者物のことを指している。長が産まれる。その事にまず震え、異世界より″英雄″が来るときき、安堵を溢した。七人の聖人の中に恋人を見つけるまでは。アンナの姿に集中すると、彼女の未来が少し見えた。
″英雄″ではない勇者を名告る異世界の男に洗脳され、陥れられる恋人。傷つきボロボロになった恋人は、一瞬こちらを見て、小さく微笑んだ気がした。
夢はそこで終わった。隣を見ると、恋人の愛おしい寝顔。その顔には傷なんてなく、幸せそのものを物語っていた。自分の隣で、幸せそうに眠る恋人に嬉しさと愛おしさを感じながら、僕は考えた。
アンナが聖女である、というのは、間違いようもない真実で、行かせないと言うことは不可能だろう。きっと拒むと無理矢理引き離される。
でも、あの勇者と名乗る少年だけは気を付けないと。
「僕に、もっと力があったらなぁ」