第99話 3年後のクリスマス
そして3年の月日が流れた。
クリスマス、真央は家に向かっていた。
傍らには文弥が歩いている。
駅から真央の家までの坂道、二人で歩くのも楽しかった。
仙台に行ってからの3年間を思い返すと、
真央にとって一番の収穫は
文弥がやはり自分には必要不可欠な存在だとわかったこと。
波瑠の言うとおり、先に恋しがったのは真央だった。
夜になると、文弥の腕枕が恋しかった。
(どうして、文弥をおいて、こんなところまで来てしまったんだろう・・)と
後悔する日々。
でも、きっと、あのまま東京にいたら、真央は文弥の思いの深さにも
気付かずにいたかもしれないとも思う。
現実に看護の仕事は厳しく、毎日多忙を極めたので、甘い感傷にひたる
時間はわずかで、泥のように眠るのが日常ではあるのだが・・。
その多忙を極める仕事の合間にも、様々な経験を積んだ。
担当した患者の生死にかかわり、始めは涙していたのに、やがて
それにも慣れてしまう自分に怖れも感じてる。
また、まだ年若い医師と親密になりそうになったこともある。
しかも相手は妻子持ちだった。
当直の夜、抱き寄せられてキスされたが、それを波瑠に言うと
『アタシもよ~!?』と言い出したので
少しときめいていたのに、興醒めしたこともある。
後日その医師は、他の看護師を妊娠させて解雇されたのだ。
夕貴は、仙台の真央によく葉書や手紙をくれた。
薫の写真もたまに同封してくるが、その愛らしさに
真央の心も少しづつほぐれていったのだ。
『なに、この可愛い子供は?』
『弟よ。私の・・』
『ああ、なるほどね・・』
波瑠にも気負いなくそう言えるようになった。
父でもなく、恋人でもないが・・夕貴の存在は、真央の心の支えで
あることには変わりないと思う。
久々に帰る我が家、不安なので、文弥に一緒に来てもらった。
呼び鈴を鳴らす。
ピンポーン
『キャーッ、真央、お帰り~』
勢いよく出てきたのは由子。
真央を抱きしめ涙した。
『嬉しいィ,久しぶりね~。元気だった?真央。』
『おばあちゃん、会いたかったよ~。』
真央の頬にも涙があふれた。
どうして、あんなに意地を張っていたのか
今でもわからないが、あの時は精一杯つっぱっていた。
『真央、お帰り~ッ』
『ママ~』
両手を広げて待ってた涼子としっかり抱き合った。
居間に行くと、クリスマスツリーに隠れて夕貴と薫が待っていた。
『薫、お姉ちゃんが来てくれたよ。』
夕貴は満面の笑みで、真央を迎えてくれた。