第89話 新しい家族
『ずいぶん、激しい母娘なんですね。』
涼子と真央が出ていったテーブルで由子と二人になりポツリという夕貴。
反対は覚悟の上であったが、唐突だったかと反省。
由子は首を振って言う。
『とんでもない。あんなに二人が自分の気持ちを率直に言うなんて、私もびっくりよ。』
『・・・?』
『涼子も真央も嫌われまいとして、親の顔色を伺いながらよい子でいる子供だった。
それは私が原因だとわかってるの。』
『それは何で?』
『…話せば長くなるから、それはまた今度話すとして…、涼子、遅くない?』
由子に言われて、夕貴が玄関に見に行くと、涼子が倒れていた。
顔が青ざめ、意識を失っていた。
『お母さん、大変だ!救急車呼んでください!』
涼子を抱えながら、夕貴が叫んだ。
真央がタクシーの中で泣いてる時に、救急車とすれ違った。
まさか自分の母親を迎えに行ってるなど思いもしない。
(ママ、ひどい!ひどすぎる!絶対許せない!)
でも、なにが許せない?と真央は泣きながらも思う。
夕貴が見つかっていたのに、涼子が3年も黙っていたこと?
真央が思慕している夕貴と結婚すること?
夕貴が真央を全然覚えていないこと?
真央を蚊帳の外において、事が進んでること?
(あ~ッ!!何もかも腹立たしい!!!)
20歳のその日、携帯と財布の入ったカバン一つで家出してしまった真央だった。
涼子は、夕貴の子供を妊娠していたのだ。
普段からストレス等で、生理不順が続いていたので気づかず
3ヶ月に入っていた。もし処置が遅れていたなら流産だった。
夕貴は寝ている涼子のそばを離れず看病するつもりでいる。
由子は不安げな顔をして、病室に入ってきた。
『1週間は絶対安静だって。』
『お母さん、子供のこと、僕も全然知りませんでした。申し訳ありません。』
夕貴は顔を曇らせ、うつむく。
『いいのよ、とにかく赤ちゃんは無事だったんだもの。よかったわ。
でも・・』
『でも?』
『真央を許してやって。私に免じて・・』
『・・お母さん、そんなこと言わないでください。僕たち、新しい家族になるんですから。』
『・・・そうよね、あなたと赤ちゃん、うちもにぎやかになるわ。』
由子は口では神妙に言いながら、腹で思ってしまう。
(結局、そう言うことになるわけ???私は、また子守ィ~???)
顔が少しこわばるのを感じながらも、美男の婿の手前
苦笑いする由子だった。