第86話 決戦は金曜日
セックスは、波留にとっては、スポーツのようなモノだ。
上になったり、下になったり、前にも横にも揺れて
差したり、差し込まれたり・・たまに雄叫びもあげる。
そして事が済めば、汗とともに忘れ去る。
そこに特別な感情は介在しない。
そんなものだと思っている。
結局朝まで、修平と過ごした波留。
(やっぱり、菊ちゃんとはなじんでるよね~。)と思う。
しかし抱き合いながら、修平は真央を心配するばかりで正直閉口。
(そんなに心配なら、本人に直接言えよ)と思うが、
そうできない事情も波留は理解しているつもり。
『なあ、波留、真央が母親の結婚相手を知って落ち込んだら
力になってやってくれ。』
『ハイハイ・・何回言うの。』
『・・・・ごめん。俺、心配で・・』
『わかったから、キスして。もっと、もっと・・・』
そう言って、修平の口をふさぐ波留だった。
学校で真央を見かけた波留は声をかけた。
『真央、今週何か予定ある?』
『う・・・ん、金曜日にママがお客さんを呼ぶらしいの。』
『へえ~、久々に文弥のグループの子と飲みに行くんだけど・・
真央、来れない?』
『行きたいけど、大事なお客だから。ママが結婚したい相手だってさ。
気が重たいよ・・。』
真央は不満そうに口をとがらせる。その姿がとても可憐。
『ええ、じゃあ、時間あったらおいで。電話してくれたらいいから。
(あんた絶対来るよ・・泣きべそかいて・・)』
波留は何も知らぬ顔してそう言った。
(そう、決戦は金曜日って事ね。) 波留の頭の中で、ドリカムが鳴った。
近づいてく、近づいてく・・・同じくドリカムを鳴らす涼子。
夕貴の言葉で決心した。
『美帆に言われたんだ。幸運の波に乗ってるときに、プライベートも
一気に決めた方がいいって。』
『大賞を取って、映画化されて、本も売れて・・つきまくってる時に?』
『次回作が勝負だってさ。一回はまぐれもあるから。一発屋で終わる人も多いのよって
脅かされてる。作品は顔で書くんじゃないのだって。どう思う?』
『アハハ・・痛いとこつくわね。さすが先生。』
『失礼な!そんなことありません。大阪から木曜日に帰ってくるから
金曜日の夜に行って挨拶させてほしい。』
『わかったわ。』
昨夜、二人で約束したのだ。
(もう、逃げられない・・)
決戦は金曜日、涼子は覚悟した。