第83話 朝、突然に
『キャア~ッ!!』
それは突然の事。しかも真央の20歳の誕生日の朝。
真央はいつものように、朝起きて居間におりてきた。
ふと見ると、テーブルの上に新聞。
その一面に目が釘付けになる。
『ダブル』30万部達成御礼 サイン会開催の広告
場所は有名デパートの書籍売場。
夕貴の笑顔があった。
ちょっと老けたけど、優しそうな笑顔。
(夕貴さんだ~~!!元気にしてたんだ・・・)
そう思うだけで、叫んで、涙ぐんでしまった。
(今まで、どうしてたの??会いたい!会いたいよ!!)
感涙にむせぶ真央。こんなに恋しかったなんて・・・と思う。
そこに寝室から出てきたのは涼子。最近体調が思わしくない。
昨夜も遅かったので、寝過ごしてしまった。
でも、真央の様子がおかしいのにすぐ気づく。
(ついに来た~~)恐れていた日が来たと直感した。でも勤めて
冷静を装う。まだ春浅いというのに冷や汗をかいてる心地。
『真央、おはよう。どうしたの?』
『ママ、これ見て!!夕貴さんの記事よ。作家になったみたい。』
『ええ!そうなの??』
『すごいよね~。サイン会だって・・ママ、知らなかったの?』
『エ?エエ・・・もちろん。私は雑誌だから・・』
『でも、今まで、どうしてたのかしら・・』
『・・・山にでもこもって、小説書いてたかもね。』
『え~ッ、でも会いたいよ。とっても会いたい!サイン会にまず行ってみる。私。』
『そう、そうね。』
涼子は自分でも何言ってるのかわからない。
ただ、久々に真央の笑顔を見た気がする。修平との辛い別れから
ようやく立ち直ったのに・・母親である自分が、また奈落に突き落とす気がして
恐ろしかった。
(真央、ママを許してね)そう心で手を合わす気持ちだ。
でも隠しきれない所まで来てしまった。
『ねえ、真央』
『なに?ママ。』
『真央に会って欲しい人がいるの・・』
『え?なに唐突に・・・』
『ごめん、内緒にしてて。ママね、真剣におつき合いしてる人がいるの。』
『ふ~ん、そりゃ、ママ、まだキレイだし、わかいもんね。』
『・・その人に会ってくれる?』
『結婚したいの?その人と。』
『えェ、あなたが成人したら、そうしようって話し合ってる。』
『はあ、それで20歳になった朝に告白ですか~。』
『ごめん・・驚いたでしょ?』
『ううん、私も来年卒業したら仙台に行くつもりだから、いいよ。
ママの人生も大事なんだから。』
『ありがとう。』
真央は卒業したら、波瑠と一緒に仙台の峰夫の病院で働こうと
決めているらしい。
(真央、相手が夕貴さんと知っても、そんな優しいこと言ってくれる?)
涼子は真央の笑顔を見て、そう思うしかなかった。