表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノンカピスコ・ten・LOVE   作者: 天野 涙
82/100

第82話 嵐の前に

夕貴の作品の受賞は、

新聞に小さな記事で掲載された。


涼子と今井美帆以外にその事に気づいたのは修平。

鮫島嘉雄の秘書の見習いになったので、新聞を読むことが日課になっていた。

仕事で接するのも様々な業種の人が多く、修平にとっては

刺激の多い毎日だった。その分常に精進あるのみと思っている。

もし以前のピアニストの彼だったら、まだ気づかなかったかもしれない。


(桜居夕貴?どこかで聞いたことがある・・・もしかしたら・・)


真央の部屋で見た絵画のモデルの男性かも?と思った。

しかし、人違いかもしれない。

いや、だとしても今の自分は、あれこれ言う立場にない。


(もしそうでも、オレには関係ない。でも・・・何か気になる・・)


そう修平が考えていると、由衣が後ろで呼ぶ。


『修平さん、会議が始まるわよ。資料まだかって呼んでる~。』

『はい、ただいまお持ちします。』


由衣は美大に復学するが授業が終わると、父親の事務所に日参するようになった。

修平の仕事の手伝いをするのが嬉しくてならないようだ。

そばにきた由衣は修平の背広のポケットのチェックまでする。

修平本人も知らぬ間に、新聞・雑誌記者の名刺が入れ込まれていた。

中には携帯電話を書いた女性記者の名詞も多数ある。


『修平さん、ワキ甘過ぎ~!!』と怒る由衣に、

現実に引き戻された修平は慌ただしく会議室に走っていった。


その頃、

涼子は、夕貴の記事を切り抜きスクラップしてため息。

新聞によっては顔写真まで載っていた。

真央に見られぬよう、居間にあった新聞を慌てて隠したくらいだ。


(ああ、これからどうなるのかしら・・・)


真央の顔を浮かべると目眩がしそうだ。

せっかく失恋の痛手から立ち直りつつある真央にどう言えばいい?

それしか思い浮かばない涼子だった。


夕貴の受賞作品『ダブル』

主人公は一見平凡なサラリーマン。ある日、妻だと名乗る女性の出現で

大きく運命が動き出す。彼には一緒に住む別の妻がいた。


実は、親の遺産をついだ放蕩息子だった主人公。教祖が亡くなったある宗教団体を

買うハメになる。

その教団の巫女と深い関係になり、彼女の連れ子を虐待死させた男は

死体を遺棄する途中に、巫女の女ともめて、女も殺害してしまう。

逃げる途中に事故を起こし、記憶喪失になっていたのだ。


作家の今井美帆はこう評す。

『夕貴って、あんな顔して、結構イヤな男かもよ。』と。


純文学なみに流麗な文章なのに、中身はエグイと評判。

でも覚えていない過去に脅かされる男の胸中を見事に描いたと

高く評価された。


涼子の思惑など無視で、夕貴の才能は一気に花開くのだった。
















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ