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ノンカピスコ・ten・LOVE   作者: 天野 涙
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第79話 彼の行く道

修平は思う。

久々に会った真央は、少しやつれたように痩せていたが

相変わらず、可憐で愛らしい。

以前の修平にとっては、抱き寄せると、真央の切なげな顔が愛おしかった。


でも・・今の自分には

(真央からは、何も得る物がない・・。)と思えた。


それは、由衣の父親の嘉雄に出会ってしまったからだ。

事故で、ピアニストとしての希望を失った彼は、前途に不安を覚え、

ただただ心細かった。その自分に、希望を与てくれたのは

由衣の父親の嘉雄だ。


鮫島嘉雄が修平の家に来たのは秋頃。

近県で国政の補欠選挙があったので、応援演説に来ていた。

修平は、初めて会って、その存在感に圧倒された。強面で寡黙。

黒い噂も多々あるが、その存在自身がミステリーで、

誠に興味深い。奥深い魅力に満ちていた。


(この人はいったい何を見てきたんだろう・・)


その心の奥底を覗いてみたいと思わせる魅力があった。


修平は、波留の父親の山野に会った時以来の衝撃を感じたのだ。

(この人についていきたい)と思った。

ついていけば、そこは地獄か天国かは想像もできないが、

由衣の後ろ盾がある間は、嘉雄は自分を粗末に扱わないだろう。


由衣と言うより、嘉雄に惹かれて、真央より由衣を選んだと言ってよい。

でも、真央を忘れたわけでないと自分に言い聞かせる。


『真央、よく聞いてくれ。オレは人生無駄に過ごしたくない。

もうウダウダするのはイヤなんだ。鮫島先生のところで勉強してがんばるつもりだ。』

『・・・由衣先輩と一緒になるってこと?』

『由衣は一生オレに償うって言ってるけど・・まだ先はわからないよ。』


うすら笑う修平。

一人娘の由衣を溺愛する嘉雄。そのアキレス腱を握れば、

また違う世界が広がるかと思うと気分が高揚するが、

修平は真央の手を握りしめて言った。


『でも、オレは由衣に身と心は売っても、心の奥底には真央を思ってる。

それだけは忘れないでいてくれ。』

『修平さん・・・。』


項垂れて、ただ涙ぐむ真央。修平も涙ぐんでいた。


(可愛い、可愛い、真央、さよなら・・元気でな。)


立ち去ろうとする修平と、違う席で息を詰めて座ってる波留と文弥の

二人と目があった。


波留の目に、惜別の涙が一筋、不覚にも流れる。

それを見て、文弥も言葉なく呆然としてしまった。

修平も波留を見下ろしたが、涙ぐむのをこらえるように

何も言わずに立ち去った。


店の前には、一台のハイヤーが横付け。窓が下がると由衣が

勝ち誇ったように笑っていた。それに乗り込む修平。


真央は顔を覆い泣いていたので、その姿は見ていないだろうと

波留は思った。


『文弥、なんで何にも言わなかったのよォ。』

『はあ、一発殴ろうかと思ってたのに・・波留の涙見たら

気が萎えた・・』

『・・・ごめ~ん。菊ちゃんに、もう会う事もないのかと思ったら、勝手に泣けちゃったのよ。』

『しかし・・就職斡旋されたら勝ち目ないわ。俺たち・・』

『それは言えてる。』


波留も文弥も、ただ泣くばかりの真央を哀れに思うだけだった。













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