第78話 さよならをするために
『もしもし、文弥?』
『波留?久しぶりやな、元気にしてるん?』
夜遅く、波留が文弥に電話をかけてきた。
中高6年間、ずっと同じクラスだった3人。
『ああ、前置きはともかく、今度ね、真央が菊ちゃんに会うの。』
『・・・それいつ?修平さん、また帰ってくるん?』
『今週の金曜日。別れ話、けじめの挨拶って感じみたい。』
『そうかあ・・・真央、どんな様子?』
『・・今更って、強がってたけど・・会いたいじゃない?』
『けど、別れ話とわかってて、会うんか?』
『・・・そうよ。可愛そうな真央。』
『俺たちも行こうや。そのつもりで連絡してきたんやろ?』
『うん、さすが、文弥。真央には内緒よ。』
秋の終わり、木枯らしの吹く頃、突然、修平が真央に連絡してきた。
話があるので、会って欲しいと言う。
もう半年以上、連絡がなかった修平。
やっと電話が出来るくらい、指が回復したのだと話す。
口調も淡々として、真央は会うとしても別れ話だと直感した。
しかし(もう会っても仕方ない・・)と思うのに、断れなかった。
でも自然消滅より、ちゃんとけじめもつけたい気がする。
100%別れ話でも、黙って、去られるよりはましだ。
真央はそう思うしかなかった。
そして、約束の日、修平は先に来て待っていた。
顔を見て、泣きたくなる真央。
でもそんな真央を避けるように、無表情な修平は、何かを心に決めてきた風だった。
同じ店の隅で、気づかれぬように
波留と文弥は息を詰めるようにして、二人の様子をうかがっていた。
『真央、久しぶり・・』
『修平さん、元気だったの?』
『ああ、ごめんよ。心配かけて。やっと、電話する決心が付いた。』
『・・・・』
『半年以上もほっといて、今更って思ったけど・・真央にキチンと
話がしたかったんだ。』
『・・・うん・・』
『事故の直後は、オレ、気が動転してて、ウチのお袋と同様に
ずいぶんひどいことして申し訳なかった。謝るよ。ゴメン。』
『ううん、いいの、当たり前よ。気にしないで・・・。』
『それからずっと、こんな手で、何をしていいのかわからないから、
真央にも連絡できないでいたんだ・・。』
『・・・・そうだったの。』
真央はじっと修平の手を見た。あんなにきれいだった修平の手。
傷跡が残り、痛々しい。ピアノを弾けなくなって、さぞ辛かったろう。
『それで、やっと、次にする事を決めたんだ。』
『なに?』
『鮫島先生の秘書になる・・由衣の父親の所で世話になることにした。』
鮫島由衣の父親、鮫島嘉雄は政界のドンと言われてる存在だと噂に聞いたことがある。
(・・・鮫島先輩の所に行く????)
『由衣は一生、オレに償うって言ってる。由衣とこれから生きてくつもりだ。』
『修平さん、どうして???どうしてなの??』
真央は絶叫したい気持ちだった。