第74話 すれ違う思い
最近、真央は忙しい。
修平のいない空白を埋めるように、予定を入れる。
スケジュール帳は予定でびっしりだ。
『真央、なに、これ?分刻みのスケジュールじゃん?』と波留は驚く。
学業にせいを出すのは勿論だが、
波留を始め友人とのつきあい、ダンスも始め、手話教室にも通う。
そして週末は近所のパン屋でバイトをしていた。
一日フルに動き、夜はへとへとになってベットになだれ込む毎日。
少しの空白があるのが怖い。
修平が恋しいのを思い出すのが苦痛なのだ。
家に帰ったことも、今どうしているのかも連絡がない修平に
半分はもうあきらめムードの真央。
(このまま自然消滅で終わるのかな・・・)
波留は、手が不自由だから仕方がないよと慰めてはくれるが、
せめて・・何か一言が欲しい、安心させて欲しいと思うのは贅沢なことだろうか?
と思ってしまう真央。
修平がいなくなってから、ぱったり絵が描けなくなった。
加害者である鮫島由衣が美大生だというのも関係あるのかもしれない。
ましてその由衣が今、修平の近くにいるなどとは夢にも思いつかないだろう。
そして修平のみならず、修平の母親の葉子にまで取り入り、
修平との距離を埋めつつあるなど想像もしなかった・
修平の面影が遠のくに連れて、夕貴の事をしきりに思い出す真央。
くたくたになってベットに横たわるとき、
夕貴の絵を見てつぶやくのが日課になってしまった。
(お休みなさい、夕貴さん、今、どこにいるの?会いたい・・会いたいよ、夕貴さん・・)
そう思うと泣けてくる。
しばし忘れかけていたのに・・やはり自分は夕貴さんが好きだったのだと
また改めて思う真央だった。
その夕貴は、涼子といた。夕食を共に食べて、次の作品の構想を
打ち合わせしていたのだ。
その年は、ステップアップして、次のランクの賞を狙う作戦だ。
今井の意見も参考に、作風やジャンルもまだ試行錯誤の段階だが、
夕貴は日々充実してると思っていた。
『ねえ、涼子さん・・』
『なに?』
『次に大きな賞を取ることが出来たら・・・お願い聞いてくれる?』
『え~なに?私おねだりされても何もないわよ?』
涼子はにこやかに笑うが、夕貴の目が真剣になった。
『涼子さん、結婚して欲しい。』
『え????』
『涼子さんと家族を作りたいんだ・・』
『え~え~???冗談はよして!!』
『涼子さん、ダメって事???』
(その言葉、待っていたのに・・でも、恐れていた言葉・・)
涼子は喜びも大きいが、真央の顔を思い浮かべて、震え上がりたい気持ちだった。