第7話 母になれない女
由子は、昔はモデル事務所から誘いが来たほどの
美人で、スタイルが良かった。
祖父はフランス人。日本人離れした彫りの深い顔立ち。大柄で、
ずいぶん男性にももてた。
その高嶺の花を射止めたのは、真央の祖父の哲夫である。
哲夫と結婚後、すぐ涼子を妊娠した由子は浮かない顔。
喜びより、日々お腹が大きくなり、体形が崩れていくのに嫌悪感を覚える。
おまけに涼子は難産。
初産のあまりの苦しさに、尚新生児の涼子に愛情がわかなかった。
自分のお腹を痛めた子供なのに・・・と周りから言われると
愛情をもてない自分にも嫌悪感を抱き、苦しくなる。
それに昼も夜もなく泣く涼子に、ほとほと疲れた由子。
哲夫に頼み込み、家政婦を雇ってもらった。
子煩悩な家政婦は、しっかりな報酬を求めて、涼子を育ててくれた。
その間、由子は体型を取り戻し、趣味に打ち込むなどの
自分磨きに精を出したのだ。
子育てに無関心を装いながら、涼子に背を向けていたのだった。
現実からの逃避でしかない。
その涼子が10代で出産し、自分を捨てた男を追って渡米したとき、
後に残された真央を見つめながら思った。
(ああ、昔さぼった分を、今償わないといけないのだ)と。
でも頼りなげに泣く真央を見ていると、可哀想で泣けた。
(ごめんね、真央。お祖母ちゃんが悪いんだよ。)
勢いよくミルクを飲む真央をしっかり抱き、そう思ったのが
昨日のように思う由子。
涼子もきっと同じように、心の中では苦しんでいるのだろうと思うことにして、
真央を慈しみ、育てて行こうとまた思うのだ。