第67話 不吉な夢と初めての夜
年が明けて、2月のある日、修平は夢を見た。
夢の中で、しばらくぶりに真央に会う修平。
年末も年始も思うように会えなかった二人。
もう、互いに思いがとまらない。
狂おしく抱き合い、一つになる。
ピンポーン、その時、玄関に誰か来る。
燃え上がる二人は、それもかまわず、抱き合って離れなかった。
真央の上で、うねるように動く修平の背中にのびる手。
その手に、トントン肩を小突かれた。
驚いて振り向く修平
『ウワ~ッ!!』
修平はそこで起きた。部屋には誰もいない。
冬なのに、額に汗をかいた。
(夢か~ッ・・・でも、何かリアルな夢・・)
イヤな予感がする。玄関の鍵を確認した。
真央にも合い鍵は渡してないが不安になった。
賃貸だから、鍵を変更してもらうのもやっかいだ。
もうすぐ真央に会う約束をしているのに、不吉な夢。
年末も年始もコンサートや練習が入って、真央に思うように会えなかった。
ホテルもイイが、自分の部屋で、真央とゆっくり会いたい。
真央が2月13日の修平の誕生日を楽しみにしている。
真央も2月の下旬なので、二人で一緒に過ごす約束だった。
(そんなこと気にするな、たかが夢だよな・・)
そう修平は、自分に言い聞かせた。
そしてその当日、真央が満面の笑みで修平の部屋に来た。
『寒かったろ?おいで・・・』抱き寄せる修平。
もう、なんにもいらないとさえ思う。
二人で食事を食べ、寄り添って映画を見る。
『修平さん、これ、見て?』
真央は自分で描いた修平の絵を差し出す。
ピアノを弾く横顔がきれいな絵。
『ありがとう・・嬉しいよ。』
『修平さんのプレゼントはなに?』
『それは後で・・・』
修平は真央をベットに押し倒す。
そして狂おしく抱き合った。
寸分の隙間もないくらい密着して一つになる二人。
初めての夜だった。真央は涙ぐむ。
(この先は、夢と同じなのか・・)
そう頭の隅で、思いがよぎる修平。
トントン・・そこにノックの音。
インターフォンを消していた修平は、ふと我に返るが
真央はまだ修平の下で我を忘れてしがみついていた。
(空耳だ・・きっと。でなきゃ宅配便?ごめん、もう、とめられないよ。)
ノックの音はそこでとぎれた・・・。
修平は果てた後、真央に腕枕をしていたわってやる。
そしてCDを渡す。
『真央、これ、プレゼント。』
『何?』
『真央に捧げる曲、オレのオリジナル。』
『ええ~ッ!!嬉しい!!』
真央の笑みが美しいと感じた修平。
夜遅く、帰る真央を送ろうと玄関の戸を開けた修平は
ドキッとする。
ドアノブに小さな紙袋が下げてあった。
慌てて隠した修平だが、後で見ると『お誕生日おめでとう』の
カードとチョコレート。名前はなかった。
そして翌年も楽しい二人の記念日を過ごすが、
3年目はなかった・・・。