第65話 したたかな彼
『文弥、きっとMだね。しいたげられるの好きでしょ?』
おしおきをした女王様は勝ち誇ったように上から見下ろして言う。
したたかな奴隷は下で苦笑い。
『こんなことなら、もっとええパンツはいてくるんやった・・。』
『もっとくい込んだ奴ってこと?あんたのおかんが腰抜かすわよ?』
『ハハッ、帰ったら、おかんに報告するわ。自慢の息子が犯されましたって。』
『ゲ~ッ!私、殺されちゃうね。』
そう言って、波留は文弥の胸に倒れる。
意外に逞しい胸板がきれいだと感じた。
自分より先に、その胸にしなだれかかった女がいるようだとも。
文弥は波留をいたわるように頭をなでる。その仕草が大人びていた。
『ゴメンな、オレ、本当、言い過ぎたと思ってるんや。』
『もう、いいよ。アンタの言うことも半分はあたってる。』
『・・・』
『明日から学校ちゃんと行くから、気にしないでイイよ。』
それを聞いて安心したかのように笑う文弥だが、ふと思い出したように
言う。
『なあ、真央もアイツともう・・・』
『う~ん、それはまだみたいよ?』
『なんでわかるん?』
『週1回、菊ちゃんはピアノのレッスンに来るもん。何となく
話してるとわかるわよ。』
さすがに私とやってるから・・とは言えない波留。
でもそんなことぐらい文弥は気づいていた。
(オレも波留のコレクションの1人になってしもうただけや・・。)
波留にとって、それは一緒にスポーツしたくらいの事なのだから、
重く思う必要はないねん・・と思っていた。
『えへへ・・ねえ。文弥。』
『なに?』
『文弥、今回で見直した。』
『男として見てくれるん?』
『文弥こそ、どう?』
『波留しだいやで。』
(ウソ!!そんなことないくせに。)
波留は心ではそう思いながら、服を着る文弥の背中を見ていた。
(関西弁男、意外にやるじゃん)
今まで、単に間抜けな奴と思っていた文弥に意外な一面を見て、驚いた波留。
文弥は波留が思う以上に大人だった。
翌日、なに食わぬ顔をしていた文弥と波留だが、
微妙な心境の変化を互いに感じていた。
でも、それが恋愛感情に発展することはなかったのだけど・・
しかし、その文弥と波留の変化にも気づかず、夕貴と再会した
母親の涼子の変化にも気づかずにいた真央。
心の奥底に夕貴を思いながら、今は修平との幸せな日々に
酔ってる。
幸せは人を鈍感にするのだ。




