第64話 女王様の罰
その日、修平がレッスンのために波留の部屋に入ると
波留はベットにもたれ、床に座り込んで泣いている。
小さな子供のように頼りなげに見えた。
波留は修平を見つけると、尚声を上げて泣き出す。
『波留、どうした?何かあったのか?』
『・・・』
嗚咽して言葉にならない風だった。
波留の子鹿のように可愛い顔が、涙と鼻水と涎に濡れてぐしゃぐしゃ。
『どうしたんだよ。波留、この菊ちゃんに話してみろ。』
修平はハンカチを出して、波留の顔を丁寧に拭いてやる。
いつもは憎らしい小悪魔なのに、時々壊れそうなくらい
頼りなげに見える波留。
『学校で、誰かに、イヤなことでも言われたか?そもそもそんなのに
めげるタイプじゃないと思うけど・・・。』
『・・・悔しい~!!』
『誰に何て言われた?言ったらスッキリする。言ってみろ。』
『やだ、口にするのも悔しい~~ッ!!』
『だったら、泣いてろ。気の済むまで。』
『菊ちゃん、帰っちゃうの?』
『そうもいかない、タイムイズマネーだもん。
波留が出来ないなら、オレは自分の練習をするまでさ。』
尚も泣き続ける波留、ピアノに座って、修平は自分の課題曲を引き出した。
このうちはどこも防音仕様なので、思い切り練習できるのだ。
無心にピアノを弾く修平を見ながら波留は思う。
(文弥の言うことは半分当たってる・・でも私はレズなんかじゃない)
自分は、真央を必要以上に縛り付けてるのだろうか?
ただ一緒に、ずっと仲良しでいたいだけなのに・・
修平を利用してまで、真央を繋ぎ止めてる?
それはいけないことなの?
でも修平が離れていきそうなのも、嫉妬で狂いそうになる。
その嫉妬は誰にたいしてなのかもわからない。
(でも、とにかく、悔しい~~!!文弥のバカ!!)
ただ泣き続ける波留だった。
波留はそのまま2日ほど学校を休んでしまう。
仕事に忙しい両親は、波留がどうして休むのかも深くは聞かなかった。
その日の夕方、文弥が波留の家の前に立っていた。
インタフォーンを鳴らす。
『はい、どちらさま?』
『あの矢上文弥と言います。波留さんの同級生です。波留さんはいますか?』
神妙な文弥。反省している様子。声の主が波留とも気づかない。
『何のご用ですか?』
『波留さんに失礼なことを言ったのでお詫びしたいのです。』
そこでドアが勢いよく開いた。波留が立っていた。
『謝るくらいなら、最初から言うな!!』
『それはごもっとも・・』
『こっちに来て!!』
『はあ?』
波留はなにもわからない文弥を部屋に連れて行く。
文弥を自分のベットに勢い押し倒した。
『私はレズなんかじゃない!!』
『ごめん、ごめん、言い過ぎた。オレが悪かった。』
『じゃあ、お詫びにと言うなら、私を抱け!』
『ええ?なに、それ?そんなん、ええの~ッ?』
困惑する文弥。奴隷のように女王様の罰を受けた。