第63話 よこしまな私
『真央、最近かわったなあ、そう思わん?波留。』
文弥がふいに言う。放課後、校庭の隅。
『どう変わったと思う?』
『ますますきれいになった、あいつとさあ、つきあってんねんやろ?』
(菊ちゃんとHやってるかなとは聞かないの??)と腹のそこで思う波留
『・・はは~ッ、悔しい?文弥。』
『聞くだけ野暮。オレがどんなに落ち込んだか・・でも、
しゃあないやろ、真央が好きなら。しかし、あんなにやけた奴にとられると
はね~。』
頭を抱え込む文弥に、波留は哀れみの眼差し。
(確かに、あんたと菊ちゃんじゃね・・アッチを選ぶよ。)
洗練された物腰の修平、ピアニストとして将来有望とくれば当然だ。
いつまでも大阪弁を駆使するあんたとじゃね・・と波留は思う。
『なあ、波留。真央に聞いたけど、お互いに第2希望は同じ看護科大学を
受けようって約束したらしいな。』
『そうよ、真央も承諾した。真央のママは美大に行くの、あまり
賛成じゃないみたい。』
『どうして?』
『美大って、お金かかるじゃん。真央のママ、シングルマザーだよ。
それに出版社って、今厳しいらしいし・・・。』
『はあ・・それは確かに。看護師になる方がいいと思うよな。』
『真央のママは、賞をとったのもマグレだからいい気になるなって
言うんだって・・』
最後の言葉は、涼子の台詞ではない。
波留が勝手に言った言葉である。
でも、涼子もそれに似た気持ちは根底にあった。さすがに真央には
ストレートには言わなかった。
(道楽で美大に行かせるほど、うちは余裕ないのよ。)と。
修平という恋人が出来たようだが、あの絵を見てしまった涼子は、夕貴を
思う真央を心の奥底では恐れている。
『しかし、いつも思うけど・・』
『なに?』
『波留は怖い女やな。』
『どうして?』
コイツ、聞き捨てならぬ事を言うと波留。
『どうして、真央を縛り付けるようなこと言うねん。』
『・・・なに言ってんの?文弥。』
『あのにやけた奴かて、真央をつなぎ止めるために、波留が
けしかけたんやろ?恐ろしい奴やな。』
『何言ってんのよ。失恋の腹いせにケンカうるつもり?』
『・・それって、親友としての気持ち?ひょっとして?波留、真央を愛してるん?』
『ええ~、私がレズだって???』
『違うんか?オレ、あり得ると思ってるで。お前、異常やもん。』
波留は逆上して、顔がまっかになった。
『あんたとは絶交よ!!』
波留は文弥を突き倒し、罵声をあびせ逃げていった。