第62話 ジェラシーと見えない視線
『その後、真央とはどうなの?』
波留はそう言って身を起こした。
隣で寝ている修平を見下ろす。そして、またがって腰を振り出した。
『もう、こんな事もしちゃったわけ?』笑う波留。
修平は思う、真央とつきあいだしてから、波留は自分に執着していると。
しかし、執拗に求めてくる波留にうんざりするのに、
惰性で関係を持ってしまう自分にも嫌悪感を感じてしまうのだ。
『そんなのイチイチ聞いて、どうすんの?焼くなんて波留らしくもない。』
むき直し、上になった修平。なだめるように言う。
真央とのセックスを波留に話す必要がどこにある?
『ねえ、私とするのとどっちがいい?』
『そんな下品なことは言うな。』
『ひょっとして、まだなの?真央とまだ寝てないの?』
『・・・・』
『へえ~、そうなんだ・・』
波留は1人ニヤニヤと笑うのだった。
事実、真央とはまだそんな関係に至っていなかった。
週1回のデートの度に、真央の部屋で、
ごく自然に抱き合い、長い長いキスをする二人。
気分は高まり、修平の指が真央の深部に押し入って、真央も十分に潤って、
彼を待っているように思うのに・・いざとなると萎えてしまう。
そんな事は今までなかったのにと思う。
(誰かに見られている気がする・・・)
後ろを見ても、姿はないのに・・視線を感じるのはなぜだろう?
壁には例の『本を読む男』の油絵が架けてある。
(あれかな・・・まさか・・)
絵画の中の男の視線を感じるなんてあるわけない・・。
深窓のお嬢さんだから、見えないヴァリアーで守られてるんだろう。
仕方がない・・・そう修平は思っていた。
(そんなこと、そんなに急ぐ必要もない事だしな・・)
修平は、真央が大人の階段を登る手引きをする役目を負っている
とも思うことがある。
彼なりに真央を慈しみ、大事な雛を育てるように愛していた。
『ねえ、菊ちゃん、真央、美大に行きたいってさ?聞いてた?』
『うん。絵画に目覚めたらしいよ。』
『もう、1回賞取ったからって、まぐれじゃんかね~。調子こくなってんの。』
『まあ、そういうなって。』
『菊ちゃんに、賞に、両手に花なんて。真央、許せない~ッ!!』
波留はそう言って、また修平にしがみついた。
可愛い二人の彼女
ピアニストとしての輝かしい将来
その幸せが、ずっとずっと続くと思っていた修平だった。