第6話 由子の後悔
『お祖母ちゃん、来たよ。』
『お帰り、今日はどうだったの?』
この所、真央は、入院する由子の処に下校途中寄るのが日課になっている。
涼子は夜が遅いので、由子の処で宿題も済ませ、面会時間ぎりぎりまで
側にいるのだ。食事も適当な弁当を買って、由子と一緒に食べる。
たまに、習い事のピアノや塾に行く他は、真央は由子の側にいたかった。
涼子は、不足のないような金銭は、真央に与えていた。
愛情と時間を与えられないのを、穴埋めするように、小学生には過ぎた
金額を渡していたのだ。
なので、小学校で虐めや強請の対象にならぬよう、由子が預かり管理する。
スーパーや、弁当屋で買った物を食べる真央が、由子は不憫だった。
早く、自宅に帰りたいと強く願う。
『うん、昨日ね、きれいな若い男の人が来たの。』
由子は、顔をしかめる。自分の留守に、男を連れ込むなんて
なんて娘だと。
『どんな人だったの?』
『うん、とってもいい人。優しいの。』
真央が、涼子の連れてきた男性をそう表現するのは珍しい。
大人の女性のように、その男性を語る眼がうっとりしていた。
『その人、どんなお仕事してるの?』
『うん、よくわからないけど、夜、お店で働いているみたい。』
『あら・・・今度はそんな人、うちに上げちゃダメだよ。』
(ええ?夕貴さんはいいひとなのに?)
由子は、自分が入院している間、一人で留守をする孫の真央が心配でならない。
巷では、幼女を狙う事件が溢れているので、無理はないが・・真央は
あんなに優しい夕貴に、また会いたいのだ。
『それより・・ねえ・・お祖母ちゃん、聞きたいことがあるの。』
それ以上、夕貴を悪く言う由子の言葉を聞かないようにするため
真央は話題を変えようとする。
『ママがね、その若い人と話してたの聞いちゃった。』
『え?何の話し?』
『ママはね、お祖母ちゃんが、私を可愛がるのが腹立つんだって?』
『・・・どうして?』
『・・・ママが小さいとき、泣いてても、お祖母ちゃんは知らん顔してたのに、
私のことは可愛がるからだってさ。それ、本当?』
由子は、一瞬で顔を曇らせる。少しうつむきながら、何かを思い出すように
つぶやいた。
『そう、涼子、そんなこと言ってたの?』
『うん。』
『お祖母ちゃんね、若いときは、今の涼子みたいに、冷たい母親だったのよ。』
『・・・・どうして?』
『後悔してる。何で、もっと優しくしてやれなかったのかなって。
でも、自分のことしか考えてなかったのね。あの頃は・・・。だから、真央を可愛がるのは、罪滅ぼしなんだよ。そう思ってる。そうして、涼子に返すしかないのかなって・・。』
由子は遠い目をして、答えた。