第58話 若きMの悩み
秋も近いのに、最近真央は悩んでいた。
進路をどうしようかと。
波留も文弥も進路を決めて、親にも一応の承諾を得たと聞く。
このままだと真央だけが取り残されるような気がする。
本当はクラスの大半が明確な意志などなく、ただ漠然と進学する。
何も焦る必要はないのに、真央は焦ってしまう。
それに、中学入学以来ずっと一緒だった波留が、
看護科に進むとすれば、無言の圧力を感じるのだ。
(もちろん、真央も一緒に行くよね。)
波留がまだ何も言わないのに、目が、顔がそう語るように思えてしまう。
流されるように、なし崩しに自分の進路まで決められてしまいそうだ。
彼女の目的は、愛する?峰夫の病院を手伝いたい為だが、
そもそも峰夫は真央の知り合いだ。
最近は、すっかり峰夫の家族とも仲良くなり、真央を差し置いて、
峰夫の家族と直接話をして、夏休みに旅行に行く始末。
真央としては正直面白くない。
(仙台に来るとさ、私、生き返るような気がするよ~)
峰夫の家に寝泊まりし、かいがいしく食事の用意まで手伝う波留。
峰夫の母親の優子、姉の笑美子もすっかり波留を可愛がっている。
(いったい、何なのよ~ッ)
真央一人、疎外された気分に陥るほどだ。
なので最近は一人美術部に入り、波留と距離を置きだした。
そのクラブでも何人かの友達は出来たが、波留のように
身体がなじむようなしっくりくる相手はまだいない。
その美術部は間近に文化祭を控え大忙しだ。
クラブでも展示会をするし、個々のクラスの設営の手伝いで、
部室は騒然としている。
『真央、いる??これ、みてくれない?』
波留が部室に入ってきた。
手には2Bのクラスのイベントの企画書。波留の提案で、
季節はずれのお化け屋敷をする事に決定したのだ。
広げたのはお化け屋敷のイメージ図。
おどろおどろしいが、どこかユーモラスなイラスト。
差し入れのシュークリームを頬ばりながら、波留は自らの構想を熱っぽく語る。
『へえ~、すごいじゃん。よくできてるね。誰が書いたの?』
3年生の部長の木下が、イメージ図をのぞき込む。
波留の熱弁に誘われるかのように、周りに人の輪が出来た。
『音大に行ってる知り合いです。ピアニストの卵なの。』
波留はにこやかに答える。
(菊ちゃんだ・・・)
真央は不意に、車の中で射るように自分を見つめた
修平の顔を思い出した。
胸の刺すような痛みに、とまどう真央だった。