第48話 迷いながらも・・・
波留は杞憂はこうだ。
(自分は本当に、ナースになりたいのか?)と、ごくごく初歩的な事。
峰夫を運命の人と位置づけ、散々周囲にもふれ回ってきた。
しかし肝心の峰夫は、いまだ波留に関心を示さない。
と言うより、仕事に没頭してそんな余裕はないようだ。
声に出して、身は踊りながらも、内心は空しさも感じてる。
でも、そんな時に思い出すのは峰夫の姉の笑美子の存在。
今ではすっかり大の仲良し、実の姉よりよほど心が通い合う気がする。
そして峰夫の母親の優子の優しい笑顔。柔らかな風情。
仙台のあの青い空、ココロ癒される風景を思い出す。
(ああ、あの風景の中に溶け込みたい・・・)と切に願う。
あの家族の一員になって、私は生きたいのと思う波留。
もはや峰夫は波留にとって、その願望の付録でしかないのかもしれない。
この汚れた家を抜け出す・・その目的のため
(私はやはりナースになるべきなのか???)
『ハイ、今のところ、もう一回弾いて!』
そんな波留の心中を知ってか知らずか、練習の時は神妙な顔の修平。
なかなか厳しい。
『菊ちゃん先生、質問があります。』
『なに?僕の指導に何かご不満が?』
『ううん、菊ちゃんは将来はやはりピアニストになるのが夢?』
波留の顔をじっと見る修平
『今のところはね、でも先のことはわからない。それが人生じゃんか。
波留がナースになるのと同じ、仰天なアクシデントがあるかもしれないだろ?』
その言葉通り、後年彼は意外な選択をするはめになってしまうのだ。
(そうだ、もうひっこみがつかない。)
弾みで選んでしまった選択でも行けるところまで行くしかないと
波留は思うのだった。
同じく弾みで、進路を宣言してしまった文弥。
先日、母親に宣言。
『オカン、オレ、医者になるからな、とめんといて。』
『また、なんで?文弥。』
『兄ちゃん、身体弱いから、医者になってオレ支えてやりたい。』
『まぁ、麗しい兄弟愛!』
母は目を丸くして、大袈裟に驚くふりをする。
しかしイヤミを含みながらも、意外にも反対ではないようだ。
『そうか、あんたの好きにしたらええ。医者なら聞こえもよいしな。
でも、いざというときの為にも、お花はやめたらあかん。
それが条件や。ええな。』
文弥の母親も波瑠の両親と同じ。
一見譲るようで、自分の希望を押し通す。見栄や対面を何とか保とうとする。
(なんか、納得いかんけど・・仕方ないか)
文弥も波留と同じ気持ちだった。