第47話 ワガママと約束
それは意外と早くやってきた。
波瑠の家、珍しく家族そろっての夕飯の席。
波瑠の父親慎二から口を開いた。
『波瑠。』
『なに?』
『お前、看護師になりたいらしいな。修平から聞いた。』
『うん。』
(来た!反対するつもり?負けないわよ。)
波瑠は身構える。
父親の次の言葉を待っていた。
『いいじゃない。私は賛成よ。尊いお仕事だもの。』
意外にも母親の優美子が先に言った。
『でも・・波瑠みたいにワガママな子に勤まるかどうかの方が心配よ。』
『ママ!?』
『ああ、私もそれが心配だ。受験は反対はしないが、でもな、
まだ先の話だから、心変わりする可能性だってあるだろう?
ピアノのレッスンは今まで通り続けるんだ。修平にも頼んでるから。
いいな、波瑠。』
『そう、そう、パパの言うとおりにするのよ。波留。』
『ハイ・・・。』
意外にも反対はされなかったが、音大受験は全く中止になったわけでもない。
ワガママで気まぐれな波留のことだから、どうせ心変わりするだろう
と言うのが両親の意見のよう
(なんか、変!?やな感じ・・)
結局、修平のピアノレッスンは減らず、翌日彼はいつも通り、
波留の所にやって来た。彼はニコニコ顔。
『先生、受験了解してくれたろ?』
『エエ、でも、なんか気にくわない。』
『どうして?先生、喜んでたぞ、あの波留がそんな気持ちでいるのかって。』
『何よ、なんて言ったの?菊!』
『それは秘密。まあそう、怒るなって。』
『・・・・』
修平は、波留の後ろに回り、背中から抱きしめる。
波留の耳元でささやくように言う。
『なあ、お前が初志貫徹すれば済む事じゃないか。ピアノくらい習ったって
邪魔にはならないし。患者のために弾いてやればいいじゃん。
ピアノを弾くナース。いいんじゃない?』
『でも~~何か悔しいィ。』
『まあまあ、オレもバイト代減らずに済むし、お前も愛しい仙台の恋人の
為にナースになる道を進めばいいじゃんか。これで丸くおさまるわけよ。』
修平は、波留の頬に軽くキスした。そして、さらに抱く腕に力を込める。
『それより、約束、忘れてないよな。』
『え?』
『真央チャンを、オレに紹介してくれるっての・・』
『ウソ?菊ちゃん、マジで?』
『アア、オレ、かなりマジ!』
『ゲ~ウソォ!?』
波留は顔で笑いながらも、内心は厄介なことになったと
思っていた。