第46話 汚れた私達
『あの後、二人どうなったと思う?』
『俺たちみたいに、なってると思うってか?』
修平の部屋、ベットの中でまどろむ波留
修平は波留を抱き寄せ、額に口づける。
『それはたぶんないんじゃない・・・』
『気になる?』
『・・・波留こそ気になる?』
『別に・・・。』
『俺たちとは違うさ、あの二人。』
『ふん、悔しいけど、それは言えてる。』
父の愛人と寝る。
波留にとってそれは修平が初めてではなかった。
父に捨てられた愛人が腹いせに、波留を襲うことは少なくない。
それを知った父は、相手が社会復帰できないくらい痛めつける
事もままあることを波留は知っている。
過去の愛人に比べれば、修平は人間的にはマシな部類だと思っているのだ。
音楽コンクールに出場して、審査員だった波留の父親に見いだされた修平。
若くて、容姿がよくて、才能がある修平は、波留の父のお気に入りだ。
ピアニストとしての将来を約束するかわりに
修平に師弟以上のつきあいを強要している・・と世間は思っている。
修平もそれを否定も肯定もしないで、平然と波留の家にも出入りするが、
波留もそう思いこんでいたのである。
『今日は用事あったんだろ?何?』
『なんで、そう思う?』
『波留が何にもなしで、オレに会いたがったり、抱かれたりなんかしないさ。』
『あたり~。さすが菊ちゃん。』
『そう、菊ちゃんの目はごまかせない。で、なに?』
『パパに私の音大受験を諦めさせて欲しいの。』
『はあ?どうして?先生、期待してるのに。波留はやればできるんだって。』
そんなはずない、あるもんかと波留は思う。
波留の才能のなさに、どんなに父が落胆してるか知ってるぞ、私はと思う。
『私、ナースになって、仙台に住む恋人の病院で働くのよ。』
ベットから起きあがり宣言する波留。
修平もさも驚いた顔をして起きあがった。
『へえ~、それって初耳?えらくドラマチックだけど。』
『そうよ、私は真剣よ。』
『それで、オレに手をかせって?その真剣愛の成就のために?』
『そうよ!パパはあなたの言うことなら聞くわ。』
『ハハ、それって純愛?波留に似合わねえ。』
修平はおかしくってならないように笑い出した。
『じゃ、聞くけど、それ手伝って、オレに何の得がある?』
(でた、世の中、損得勘定だけで生きてる、コイツ。)
『じゃ、逆に聞くわ。何したらきいてくれる?』
波留が困った顔して、修平の顔をのぞき込む。
修平は思う、キスしたくなるほど可愛いと。
『真央チャン、オレに紹介して。』
『ええ??ダメよ、純粋培養の真央は、あんたには不似合いよ。』
『よく言うよ、不純なのはお互いさまだろ?』
『わかったわ。その代わり・・・』
『その代わり?』
『真央によけいなこと言ったら殺すわよ。』
すごむ波留、目は真剣だ。
『あんたの親友は汚れてるってか?いいさ、言わない。オレも同類だから。』
修平も目は真剣だった。