第41話 微笑む美神?
涼子の美容雑誌『美神』に連載されていた今井美帆の小説
『GYAKU若』は評判になり、多数の賞を受賞した。
映画化、ドラマ化の話も山のようにあったが、美帆は首をたてに振らなかったようだ。
『まるでイメージにそぐわない子に、若の役をやってもらいたくない。』
また
『勝手に話をいじられたくないの。』とがんと拒否し続けたと言う。
その連載も今月号で終了。
話は、ヒロインが若の子供を身ごもって終わるのだが、
作者本人の今井も妊娠して、しばらく休業するというのだ。
『子供?もちろん、神部との子供よ。どうして聞くの??』
インタビューにも、にこやかに答えて上機嫌だ。
神部は年配なので、年老いた義母に孫を抱かせてやりたいと
嫁姑関係も良好と装うのも忘れない今井。
雑誌編集者の涼子としては、雑誌本来の記事より
付属であるはずの小説や付録としてつけている化粧品サンプルや
小物で、読者を増やすと言うのには抵抗があるが、不況で物が売れない時代
ソレもやむなしと自分に言い聞かせる。
その今井が、涼子に事務所に来て欲しいと言うのだ。
今井の事務所は閑静な住宅地と思いきや、繁華街のはずれの
こじんまりとしたマンションだった。
部屋の中にはいると、お香の香りがほんのり漂い
不思議な空間が広がる。
異文化の仏像、お守りのような置物があった。
外部の喧騒を思うと、嘘のようにひっそりと落ち着く。
時折、チカチカとまばゆくネオン。蛍の灯りのように見えた。
『あなたとゆっくり話がしたかったの。』
『今日は何か・・・?』
『ウフフ、せっかちな人ね。もっとゆっくりすればいいのに。』
涼子は常に時間に追われている。
ソレが身に染みついてしまって、落ち着かない。
今井は、ただ愉快そうに、ハーブティーを飲み干すと言った。
『あなたに紹介したい人がいるの。』
『え?どなたですか?』
『ウフフ、新進作家。将来の大器よ。』
『はあ~?』
『あなた、後ろを向いてて。』
『え?後ろを向くんですか?』
『そう、さっさと向くのよ!』
『・・・・』
背中に誰かを呼びにドアを開けた気配がした。
スーっとドアが開いて、風が吹いた気がする。
『もういいわよ、こっち向いて~。』
今井の張り上げる声を合図に
涼子は振り向くと、アッと声をあげた。
『夕貴さん・・・???』
夕貴が立っていた。
あれから3年以上経っている。はにかむように笑う夕貴。
涼子は信じられず、ただ立ちつくすだけだった。