第4話 奇跡の朝
翌朝、真央がリビングに降りていくと、昨夜の若い男性が
ソファーで眠っていた。
本を読んでいたらしく、ブランケットの上に某有名な作家の初版本が
乗っていた。祖父のコレクションだ。
『あ、お早う・・・。君、具合はどう?』
真央の気配に気付いたのか、男性は起きあがる。
寝起きなのに、ダラシナイ感じがまるでなく、端正な清潔な顔に、昨夜の疲れが
少し伺えた。
『ううん、大丈夫みたい。心配してくれて、ありがとう。』
真央は、心底嬉しかった。恥ずかしい姿を見られたのに、何事もなかったように
接してくれる心優しい男性に感謝したい気持ち。
でも出血はもうなかった。きっと、初潮ではなかったのだ。
それで今朝、トイレで生理用品ははずしたのだ。
そう思っていると、キッチンからみそ汁の匂いが漂ってくるではないか。
(ゲッ???ママが朝食を作ってるの???)
奇跡に近い
涼子が、食事を作るなんて・・と真央は急ぎキッチンに行く。
見ると、涼子は少しハニカミながら、テーブルに食事を並べていた。
サラダに、目玉焼き、ワカメのみそ汁。海苔に納豆。
ほっかりと湯気の立つご飯。見た目、普通。
(奇跡・・・・・)
『真央、夕ちゃん、呼んできて?ご飯食べようって。』
真央の驚きが容易に想像できる涼子は恥ずかしそうだ。そして
真央に呼ばれて、男性が顔を出した。
『うまそう〜、涼子さんが作ったの?』
『そう、食事なんか作ったの、学校の調理実習以来ね。』
『・・・・まあ、いただきます。』
男性の微妙な少しの間は、気にせず、真央も神妙な顔で席に着いた。
おそるおそるみそ汁を手に取る。そして飲んでみた。
不器用な、少し濃い味の汁が、のどに流し込まれた。
(普通・・・・助かった)
男性も、少し安堵した横顔がお互い可笑しかった。
『美味しいよ。涼子さん。』
『ありがとう。真央は?どう?』
『ママ、濃いよ。』
『ごめん、私、みそ汁作るの、不慣れでさ・・』
『ううん、化粧が・・・・。』
『エエ???何言ってんのよ。この子、失礼ね。』
男性は、涼子と真央のやりとりを見て、
笑いをこらえる。楽しそうだ。
その顔を見て、涼子は言う。
『あなた、朝も似合うのね。』
『え?どういう事?』
『ううん、失礼かもしれないけど、あなたのように夜に働いてる人は、
日の当たるところでは、みすぼらしく見える人も中にはいるでしょ?
あなたは、そうじゃないのね。夜のネオンのしたでもキレイだけど、
朝に会っても、全然キレイだわ。』
涼子の言葉に、男性は少し照れたようにはにかむ。
『ありがとう、僕もそろそろ、朝日を浴びる生活に戻りたいと思ってるんだ。』
男性は静かにそう言った。