第36話 波留の秘密
『波瑠、それは無理!』
『え?どうして?』
『峰夫さんは、心は女だから。』
『あぁ、ゲイって事?』
波瑠は笑う。
そんなのわかってると言わんばかり。
『真央、峰夫さんは本当は違うと思うよ。』
『え?』
『そう思いこもうとしてるだけだよ。きっと。』
『・・・』
『それに、見たワケじゃないでしょ?峰夫さんの恋人。』
『でも・・・。』
真央が口ごもっていると、波留は目を見張って言う。
『実は・・・うちのパパの恋人は男なの。』
『ええ???』
『だからママが恋人を作ってもかまわないわけ。』
『でも、結婚して、波留やお姉さんがいるのに?』
『ば~か、子供なんて、やらないでも、人工授精でも出来るじゃん。』
『・・・』
『アーティストにはよくあることだよ。』
波留は、タレントの噂話をするかのように、さらっと言う。
でも、どうして、波瑠の母親は結婚したのだろう。
その問いもわかってると言う風に、波留は言葉をつなぐ。
『ママはね、パパをすんごく尊敬していて、すんごく愛してたの。
だから強引に結婚したんだって。自分の愛で、パパを変える事が出来るって
思ってたって・・・でも・・・。』
『でも???』
『パパは変わらなかった。ママを愛してるけど・・違うんだって。』
『じゃあ、なんで別れないの?』
『それは、やっぱり愛してるからじゃないの?』
『ふ・・・ん。そんなものかな。』
波留は、大人びた顔をしてため息をついた。
つかれた中年女性のように見えた。
『ただ、パパとママは、自分たちの才能を受け継いだお姉ちゃんは
すごく可愛いみたい。でも、私は才能ないから可愛くないんだ。』
『そんなことないよ・・』
『パパは、私が自分の子ではなく、他の男の子供じゃないかと
思ってるじゃないかって思うよ。』
『そんな・・悲しいこと言わないで。波留。』
たまらず、真央は波留の肩を抱いた。
そうするしか、今の自分には何もしてあげられないと思う。
(わかるよ、私だって、ママに愛されてないんだもん。)
真央も自分は波留と同じと、心の中でつぶやいていた。