第35話 運命の人?
二泊三日の仙台の旅の帰り、また新幹線の中、
真央と波瑠は佐藤峰夫の事を思い返して話が弾んでいた。
久々に会った峰夫。
以前は、女性的でなよなよしてたのに、
見違えるように凛々しかったのに、真央は心底驚いた。
峰夫は仕事で忙しいとの事で、代わりに峰夫の母親の優子が駅まで来ていた。
その姿は、まるで観音様のように気高く、真央の目にも
穏やかなオーラに包まれているかのように見えた。
優子は美人で、のぞまれて結婚したと聞くが、
旧家で、プライドの高い父親の親族の中で苦労したらしい。
『ママが大好き。』と言う峰夫。
母親の為なら、偽りの人生を選んでもいいとさえ思う彼を母親は
どう思っているのだろうと真央は思った。
そして、旧家然とした古めかしい峰夫の家に到着。
立派な純和風の庭の広さにびっくりするが、
峰夫にそっくりな姉の笑美子もにこやかに出むかえてくれた。
(ここで、峰夫さんは育ったんだ・・)
温かくも感じるのに、妙に沈んだような空気を感じ、峰夫が
背負う荷の重さを思った。
その日の夜、帰宅した峰夫。
『やあ、久しぶり・・。』
満面の笑みを見せるが、東京にいたときとは比べ物にならないくらい
大人びて見える。
そして・・
なごやかに食事をしていた時、峰夫の携帯が鳴った。
『え?高木さん、もう破水したの?じゃあ、すぐ行くよ。』
峰夫は食事もソコソコに、慌てて出ていった。
『うちの医院で最後のお産の人が破水したらしいの・・。
ごめんね、せっかく来てくれたのに、ゆっくりおもてなしも出来なくて。』
同じ医師として働く笑美子は申し訳なさそうに言う。
笑美子は眼科医。父親がそうしろといったそうだ。
次の日、峰夫の変わりに笑美子が町を案内してくれた。
途中、峰夫の病院の前を通ってくれた。
『ここが、うちの病院なのよ。』
個人病院としては大きな病院で、
介護施設を病院に併設するらしく工事をしていた。
中を案内してもらっていたら、新生児室の前を通る。
看護師が1人の赤ちゃんを抱いていた。
おそらく明け方生まれたのかもしれない。
『うちも今月で産婦人科を閉めるの・・。』
『え?どうして?』
『う・・ん、うちも人手不足だし、近所の医院で訴訟問題があってね。』
『そうか・・。』
少子化と医師不足の問題、こちらでも他人事ではないのだ。
『笑美子さん、私、将来こちらに来て、お手伝いします。』
何を思ったか、波留は突然そう言い出す。
『そう、ありがたいわ。峰夫も喜ぶと思うわ。』
笑美子さんは笑いながら、子供の戯言と聞き流す風だった。
でも、妙に波留の顔は真剣だったのだ。
夜、峰夫と波留の3人で食事を食べる。
夜景のきれいなレストランだった。峰夫はワインで、顔を赤らめながら
楽しそうだった。
『峰夫さん、がんばってるんだね。』と真央。
『ああ、やるしかないからね。男はさ。』
『男?峰夫さん、すっかり男になっちゃったんだね・・』
『・・・そうだ。半分女で過ごせた東京は楽しかったよ。
でも、それより・・夕貴さん、まだ見つからないの?』
『・・・。』
『会いたいな~、どこにいるんだろうね』
峰夫は遠い方を見て、そうつぶやいた。
新幹線の中で、ふいにその事を思い出すと、夕貴を思い
真央は胸が熱くなる。泣き出したくなる。
(夕貴さん、どこにいるの??)
『決めた、真央、私、峰夫さんと結婚する。』
感傷に浸っていた真央は、波留の大声にびっくり。
『どうしたの?いきなりびっくりするじゃん。』
『感じるのよ。私、峰夫さんは私の運命の人だって。』
『はあ???』
『絶対そうよ。私、峰夫さんを助けてあげたい。』
波留は、車内なのに立ち上がって、そう宣言したのだった。