第33話 そして3年後
夕貴の行方がわからぬまま3年の月日が流れた。
今井美帆は、文壇の重鎮と言われる神部と結婚。
神部は再々婚。
年も離れていたが、今井は結婚を決めた事をあっけらかんと話すのだ。
『女は望まれてる間が花なのよ。私のようなぽっと出が、
彼のような後ろ楯を持つことでスキルアップ出来ると思うの。』
その言葉通り、結婚を機に今井はヒット作を連発した。
それから涼子は、新しい雑誌を任される。
美容全般の雑誌。
古巣の女性誌は、涼子の後輩大間の奮闘虚しく部数が伸び悩みついに
廃刊に追い込まれたのだ。
大間はショックを受け、心の病で入院してしまう。
涼子は時間があると、見舞いに行った。涼子を見ても、大間はうつろな目をして
窓をよく見ている。
優等生で、生真面目。なのに・・・なぜ?と大間は思うのだろう。
そんな彼女に、涼子は言う。
『大間、少し休んで元気になったら、またおいで。待ってるよ。』
涼子はただ疲れ果てた彼女を労ってやりたかった。
ある日会社に戻ると、今井が待っていた。
摩周湖で、夕貴を探す旅以来、今井は涼子を親友と呼ぶ。
一人の男を介して、同志のような連帯感が生まれたと言う。
なのに、あっさりと神部と結婚してしまった今井。
どうも、作家先生はわからない人種だと涼子は思う。
『おめでとう。中村編集長。』今井は上機嫌。花束を抱えていた。
『ありがとうございます。』
『あなたの新雑誌に、私の新連載をプレゼントさせてもらうわ。』
『ええ~、嬉しい。先生。どんなお話なんですか?』
『ウフフ。楽しみにしてちょうだい。』
今井は意味ありげに笑う。その笑顔は妙に艶めき、華やかだった。
それから、涼子は藤本芳彦に会う約束をしていた。
通販雑誌の部署での上司。涼子は彼からプロポーズされていた。
夕貴の事が頭によぎったが、藤本は温厚な男だし、由子も彼を気に入っていた。
ただ真央が難しい年頃だからと、涼子はいつになく慎重にかまえていた。
しかしもう30代、落ち着こうか・・と涼子は思っていた。
夕貴の行方がわからない。
正直淋しいのも手伝い、藤本との関係を深めていったのだ。
もうそろそろ・・プロポーズの結論を出すべきだと思っていた涼子。
しかし、その日の藤本は沈んでいた。
そしておもむろに顔を上げる。
『ごめん、結婚の話はなかったことにして欲しい・・。』
『ええ?どういう事、藤本さん。』
藤本はただうつむいていた。