第27話 長い休暇
結局、夕貴は、新しい年を病院で迎えた。
『よくこんな身体で働いてましたね。』と医師も驚くほど、
夕貴の身体は疲れきっていた。
不規則な生活、過度の飲酒。
神経をすり減らす接客。
疲労が重なって、内臓が弱っていたのだ。
夕貴は、年明けには病室を個室から大部屋に変わる。
一人でいるより、他の患者と話をする方が楽しい。
それに見舞客も、日が経つ程に減るとは思っていたので
気にならない。
先日、アサヒが見舞いに来てくれた。
夕貴が辞めた後の店は、自分が背負ってるといきがる。
『いや〜、夕貴さん、いなくなったら、もう俺でもってるようなもんです。
ゴールドも。』
そう・・・自分もそうだったと、夕貴は苦笑する。
尊敬していた洋介と言う先輩も、20代半ばで辞めていった。
その洋介は、今は定食屋をしている。
実家の店をリニューアルし、繁盛させて、2号店をオフィス街に開くという。
『朝起きて、夜寝るって言う当たり前の暮らしが出来るって幸せだぜ。』
洋介は見舞いに来てくれたとき、そうしみじみ言うのだ。
『若いときは、俺さ、ウチの商売なんかバカにしてたんだ。
でも、楽しみに来てくれる客で支えられてるだと思うと、ありがたいよ。』
洋介も独立して、ホストクラブをオープンさせたが、負債を抱え倒産させた
過去がある。
『夕貴はどうすんだ?これから・・・』
洋介に聞かれて、夕貴は曖昧に笑った。
(作家になりたいなんて言ったら、笑われそうだ)と苦笑する。
『まあ、お前は俺と違って、しっかりしてて 金の管理もシビアだったよな。』
そう、売れる物はみんな売りさばき、当分の生活には支障がないだけの
資金は用意している。
『しばらく田舎に帰って、英気を養ってきますよ。』
夏に祖父の法事があるので、しばらくは北海道に滞在したいと
考えている。
同窓会もあるし、しばらくぶりに元の家族にも会う予定。
(今年一年は、俺にとっては、長い休暇みたいなもんだ)
夕貴はそう思うと、入院中なのにもかかわらず、嬉しくなってくる。
精密検査を受けては、内蔵の疾患が次々見つかっても苦にならないでいた。
真央は、3日おきくらいに、夕貴を見舞う。
峰夫もいつも一緒だ。
入試の日程は迫っているので、由子はいい顔をしないが
へっちゃらでやってくる。
病院に来ると、いつも夕貴がにこやかに話の輪の中にいた。
老若男女の区別無く、人気者だ。
『不思議な人だね。夕貴さんて。』
峰夫はただ感心してしまうのである。