第24話 偽りの日々
そして、季節は夏。
峰夫の指導の元、真央の成績は上昇し、双葉の合格ラインまで
到達した。
由子はすっかり峰夫を気に入り、一人暮らしの彼を気遣い
夕飯をともに食べるようになった。
と言うのも、峰夫は格安の値段で、面倒見てくれているからだ。
『由子ママ、いつもありがとうございます。』
峰夫は遠慮もせず、素直に食卓について、美味しそうに
夕飯を食べていくのだ。
『本当にミネコちゃんはいい子ね。・・・なのに、どうして、中身は女なのかしら??』
と由子はよく真央と二人の時口にするのだ。
ある日、真央の部屋で、おやつのスイカを食べている時、
真央は以前から気になっていた疑問をぶつけてみた。
『先生は、将来は女になっちゃうの?』
峰夫のスイカを食べる口が止まった・・
『う〜ん、まだわかんない。でも、きっと今のままかもね。』
『どうして?』
『うちを継がないといけないから。』
『・・・・』
峰夫のうちは、代々続く医者の家系。峰夫は家を継ぐのを約束に
東京の大学に行くのを許してもらった。いずれ個人病院を継ぐという。
『じゃあ、そのうち、結婚もするの?』
『たぶん、子供を作る為に。』
『奥さん、愛してないのに?』
『ううん、そんな先のこと、わかんない。』
峰夫は、自分の母親が大好きだと話す。貧しい家の出なのに、美人なので見そめられ
父親と結婚した。
プライドの高い父親の家族の中で苦労したという。
『ママのために、私はそう言う人生を選ぶのよ。』
『心を偽って??』
『ママを悲しませてまで、わがまましようと思わないから。』
『・・・・』
『でもね、たまに思うのよ。』
『何?』
『結婚して、家族を持って、子供が大きくなって、また病院を継いでくれたら、
私はひっそりと家を出て、女になって新しい人生を生きるのもどうかな?って。』
『壮大な計画だね・・。』
『でもその前に、うちの病院でも、性転換手術が可能になればいいのにって思うの。
同じ悩みを抱えてる人のために、望みを叶えてあげたいもの。』
『先生の願いが叶うといいね。』
『しかし、過酷な手術よ。多くのリスクを背負うわ。ママの為と言いながら
結局、私は意気地なしなんだわ。きっと。』
『そんなことない。先生は優しすぎるんだよ。』
でも、言葉とは裏腹に、
峰夫も母親という呪縛に捕らわれていると真央は思った。
母親の涼子に嫌われたくなくて、大した意志もなく、受験する自分と同じなのだと
真央は感じていた。
でもだからこそ峰夫を慕い、影響を受け、後に医療の道を志すのである。