第22話 タイムリミットまで
実は、夕貴は店に入った時から決めていた。
ホストをするのは25才までだと。
それ以上は身体的にもたないだろうと、自分で思っていた。
現に、もうその兆しは感じてる。
仕事とは言え酒を飲むのは、最近めっきり疲れる。
でも少なくとも、年内は保ちこたえて、店は辞めるつもりなのだ。
その後の計画では、来年には彼が好きだった祖父の七回忌がある。
夏頃、親戚一同が集まるのだ。
その時に久々に帰省し、しばらくは北海道で過ごして、英気を養いたいと
思っている。
そしてその後は、自分の思う道に進む生活をしたいと願う。
と言うのも、
作家の今井美帆と会う機会が増えて、尚そう思うようになった。
美帆が、仕事場にこもり執筆中の時によく呼ばれる。
『ねえ、夕貴、これどう思う?』
美帆は何の警戒もなく、原稿を夕貴に見せようとする。
『え、いいのか?俺なんかに見せて?』
『いいわよ。あなたの意見が聞きたいの。』
そして、
夕貴が読んだ感想を率直に述べると、美帆は面白そうに聞くのだ。
『あなたなら、この後どうする??』
『そうだな、俺なら・・・』
夕貴の意見を聞くと、美帆は、ある時は頷き、またある時は反論する。
『あなたは女がわかってない。』と怒る時もあれば、
『でも、これもありじゃないかしら?』とイタズラっぽく笑ったりする。
お互いの意見をぶつけ合いながらも、美帆と話あっていると、夕貴は楽しい。
1つの物語を作る手助けをしている気になる。
『そうね、じゃあ、その案いただくわ。いいでしょ??』
『いいけど・・・。』
『え?不満?それ、盗作じゃないのってか?あなたは、もう、私のブレーンみたいなものよ。』
『アア、悔しい〜。俺。』
自由自在に、構想を広げる美帆が羨ましい。
そして、出来上がった原稿を見せてもらうと、また美帆の構想のあざやかさに
夕貴は目を見張る。
『美帆は、やっぱりすごいよな・・。』
夕貴は半ば尊敬の念を抱く事さえある。そう言う時、美帆は勝ち誇ったように
微笑む。
『えへん、店で飲んだくれるばかりのオバサンじゃないぞ。』
夕貴は苦笑するが、眼は笑っていない。
(いつか、俺も・・・)
そんな事を思い浮かべていると、美帆は顔をのぞき込んで、
ささやく。
『夕貴がもし同業者になったら、私もウカウカしてられないわね。』
『・・・』
『でも・・その時は、私が先輩として、イロイロ面倒みてあげる。』
『ああ、先生。よろしくお願いします。』
するりと腕を回す美帆。そして夕貴と唇を重ねると微笑む。
『将来は、江國と辻みたいに、夕貴と競作で本を出せたら素敵ね。』
美帆は夢心地にそうつぶやいていた。