第21話 別れの予感
『一体、どう言う風の吹き回し?涼子さんから連絡が来るなんて・・。』
夕貴は、何事もないように笑う。
朝日が当たる席で、窓に寄りかかり、日が眩しいのか、
まだ眠たいのか、眼を細めている。
『朝から待ち合わせなんて、無理したんじゃない?』
朝のファミレスで会うのは、夕貴が指定してきた。
涼子の久々の休みに合わせると言う。
『大丈夫、一寝入りしてきたから。それに、涼子さんは
朝の僕が好きって言ってたからさ。
会うなら、なるべく朝がいいなあと思ってるんだ。』
『やだ、まだ、そんなこと、覚えてるの?恥ずかしいわ。』
『そう、そう言うつまらないことを覚えていて、客を喜ばせるのが
商売だから。それに、朝ならおごってもらうのも安いじゃんね。』
『ソレは、ソレは、気をつかってもらって、ありがとうございます。
娘の入試も控えてますから。ありがたいお心使い。』
涼子は大袈裟にテーブルに頭をつけた。
夕貴は笑ってる。顔を上げた涼子は、神妙な顔つきになる。
『ねえ、今井先生から聞いたけど・・』
『なに?』
『凄腕の新入り君がいるそうね。先生、心配してたわ。あなたが喰われるんじゃないかって・・。』
涼子がそう言うと、夕貴はくくっと笑う。まるで、鳥が鳴くように。
可笑しくてならないと言う風で。
『ああ、アサヒのこと?アイツは、俺が連れてきたんだ。大阪に行った時
面白い奴がいるなと思って。アサヒと言う名前も俺が考えたのさ。』
『???』
『夕陽と朝陽、面白いだろう?ソレで、店が盛り上がればいいのさ。』
『そして、あなたは去っていく?夕陽が沈むように・・・』
『・・・・いずれはね。』
夕貴はきっと、計画通りに事を進めているのかもしれないと
涼子は思う。
自分の目指す道に向かって、着々と駒を進めているのだ。
見かけは柔和でも、他人には腹を探らせず、計算高いのかもしれない。
『でも、今井先生、寂しそうだったわ。あなたがいなくなったら、私はどうすればいいのって・・。』
『女はみんな、そう言うの。でも、美帆も直にアサヒのよさがわかるさ。心配ないよ。
それに、アサヒでなくても、代わりはいくらでもいるさ。』
『・・・ソレは違う。』
『・・・どうして?』
『どうしてと言われたら、困るけど。そう思うの。』
涼子は、夕貴に返す言葉に困り、ズズッとオレンジジュースをストローで
吸い込む。
たぶん、彼の言うとおり、夕貴の代わりはいくらでもいるだろう。
美帆もそれは頭ではわかっているくらい、涼子も想像つく。
(でも、女心はそんなに単純じゃないわ。先生だって、私だって・・・)
そこで、涼子は思う。
(どうして、私だってなんだ???)
そんな涼子の思いなど知らぬ様に、夕貴は言う。
『話はそれだけ???』
『・・・』
夕貴はそう言うと立ち上がるので、二人で店を出た。
涼子は自分で、結局なにが言いたかったのかわからなくなる。
そして、朝陽を浴びて、夕貴の背中を見ると、
その背中が消え入りそうに感じて、無性に不安になった。
『夕ちゃん・・・』
その背中に、名前を呼んだ。
『なに?』
『ごめん、あなたが消えて、無くなりそうに見えて、不安になった。』
涼子は、つぶやくように言う。
『何言ってるの。朝から、大丈夫?疲れてるんじゃない?』
夕貴は、何喰わぬ顔で笑う。
涼子の予感は、その後現実の物になる。