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ノンカピスコ・ten・LOVE   作者: 天野 涙
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第19話 誕生日の夜

11月3日祝日の夕方、電話が鳴った。

真央がでてみると、涼子だった。


『真央!!明日、夕ちゃんの誕生日なのよ。私、お花送る約束してたのに

 会議が長引いて、お花買いに行けそうにないの。明日も打ち合わせで、出れそうにないし・・困っちゃったわ。』

『ええ〜??ママ、マズいじゃん。』

『そうなのよ、だから、真央。花屋さんでお花選んで、夕ちゃんのお店に送る手配してあげてくれる?』

『うん!わかった。』

『そう、ごめんね。おばあちゃんにもチャンというのよ。』

『うん・・・わかったから。心配しないで。』


その当時でも、ネットで手配と言う手段もあったのかもしれないが、

真央には思いつかず、表通りにある花屋に駆け込んだ。

涼子も直に自分の目で選んだ花を、夕貴に送りたかったのだ。


そこで、予算内で

また去年と同じカサブランカ数本を含む豪華な花束を

作ってもらう話を真央はしたのだが、

夕貴に会いたくて、翌日に自分が取りに行くと店に伝えた。


『相手も方もお喜びになりますよ。』


店員のお愛想の言葉にも気をよくした真央。


(夕貴さんに会える・・)


そう思うだけで、心が浮き浮きした。


そして、翌日の夕方。真央はおしゃれをして、浮き浮きと出かける。

由子には、適当な理由を言って、出かけてきた。

しかし、まさか夕貴の所に行くと言えない。

そうして、嘘を覚えながら、人は大人になっていく。


真央はさっそく花屋に寄って、

その予想外に大きな花束を持ってタクシーに乗り込む。


走る車内の中、昼間の美香との会話を思い出していた。


『ねえ、真央の好きな人はクラスにいるの?』


愛らしい大きな目を輝かせながら、

美香がそう聞いてきた。美香は、同じクラスの隼人くんと最近

相思相愛だとわかったらしい。


毎日がバラ色だと話す美香。


真央は、クラスの中にはいないが、好きな人はいると答えた。


(隼人なんか、まだガキだ。あんなの眼じゃない)



(自分はもっと大人の男性が好きなのだ。たとえば、夕貴のような・・・)


背は伸びたと言っても、座席に座って、足がようやくつくかしないのに

思考だけは、もう大人のつもりだった。


夕貴の店のあたりで、車から降りると、店の前はもうすでに慌ただしい様子。

数人の若い男性が出入りしていた。

店は地下のようで、車が停まっては、おびただしく増える花を

手際よくさばいている風だった。


『あの・・・』


真央は、そのうちの1人に声をかける。

夕貴の誕生日の花を届けに来たというと、快く店の中に案内してくれた。

夕貴を呼んできてくれるという。


店の中は、まばゆい光にあふれ、真央は眼がくらくらする。

花は所狭しと飾られ、華やかな香りをまき散らす。

またそんなうっそうとした匂いにむせるようだ。


『やあ、真央チャン。わざわざ来てくれたんだね。ありがとう。』


夕貴がにこやかに奥から出て来た。


『久しぶりだね。しばらく見ない間に、ずいぶん大人っぽくなった。見違えたよ。』


そう言いながら、真央にジュースを勧めてくれた。

甘酸っぱいジュースと同じくらいに、甘酸っぱい気持ちで、真央は満たされる。


(やっぱり夕貴さん、いいなあ・・・)


でも夕貴は忙しそうだし、自分がまだまだ子供なので、遅くまで店にもいられないと

悟る真央


『夕貴さん、記念に一緒に写真撮って!!』とおねだりして、

機嫌良く帰ることにした。


そして後年ずっと、その写真を宝物にしていた。


『気をつけるんだよ。』


タクシーに乗せてくれた夕貴の姿を、真央は

車内から、小さくなるまで見つめていた。

























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