第17話 涙流れて
『ねえ、涼子さん。配属が変わったんだって?』
『そう、早いわね。誰から、聞いたの?』
『美帆から聞いたよ。残念がってた。』
『・・・。』
昼下がりのカフェレストラン。
夕貴は、目の前で、すっかり意気消沈している涼子を見ているのが辛かった。
涼子にとっての不幸な知らせは更に続き、今までの女性誌の部署から
通販を扱う情報誌に転属されたのである。
『中村、かばいきれなくて、ゴメン。すまない。私にも落ち度があるのに』
田中は最後にそう言ってくれて、涼子は申し訳なく思う。
そしてバブルの恋に溺れた我が身の不甲斐なさを嘆きたくなるのだ。
『警察には被害届を出したの?』
『ええ・・・でも、もうどうでもいいわ。』
『どうして?』
『高い授業料だったと思うしかないから。』
上海で出入りした店のどこかで、スキミングをされたと思いたかったが
どう考えても、アーサーが犯人だと疑うしか余地がない事が
涼子はただただ悲しかった。
そして、
警察から聞かれても、その名前を挙げることが出来ないでいたのだ。
由子も、真央も呆れてる。
(仕事、仕事と言っていたのに、中国人の男に騙されて・・)
由子にそう面と向かって言われたわけでもないのに、涼子は
そう感じてしまう。冷たい視線を背に感じる毎日だ。
『でも、諦めちゃ駄目だよ。涼子さん。』
『・・・・・。』
夕貴の言葉は嬉しいのだが、素直になれない。
なげやりになってしまう。
(もう、どうでもいい。)
『真央ちゃん、もうすぐ受験だろう?お金いるんじゃないの?』
あんなに、母親に冷たい視線をなげる娘の為に?
教育資金を用意する必要があるのか?
そう思うと、無性に・・・情けなく、泣きたくなる涼子。
『う・・・ウゥ・・・』
ソレまで押さえていた感情が、涙になって溢れてきた。
涙がとめどなく、流れてしまう。夕貴は驚いてしまった。
『涼子さん・・・大丈夫?』
まだ昼間なのに・・
人前なのに・・ご飯、途中なのに・・(全く食欲はないが)
(情けない・・)
何してるの、私。と涼子は思う。
化粧ははげて、きっとみっともない顔をしてる。
しかし、とにかく、泣いてしまいたかった。
張りつめていた気持ちを解放するために・・もう一度やり直すためにも。
そう思っていたら、ふいに涙をぬぐうハンカチが
頬にふれる。ハンカチからのいい香りが鼻をつく
夕貴だった。心配そうに、涼子を見つめてる。
『夕ちゃん。』
『なに?もうすっきりした?』
『ありがとう。私、顔、変でしょう?』
『そんなことない。可愛いよ。』
『あら、上手いこという。さすがNO1ね。でも、何かスッキリした・・・』
涼子は、少し晴々とした気分になれた気がした。
家で、一人になっても泣けずにいたのだ。
『また、あなたの誕生日に花を贈るわ』
『ああ、覚えててくれたんだね。』
『そう、一番貧弱なのが私のだから、すぐわかるわ。きっと。』
夕貴は何も言わず、ただ笑っていた。