第14話 夜の僕?
帰り道、涼子は考える。
(どうして、あんな事を言ったのかしら・・・。)
『朝のあなたを見るのが好きなの。』
思い出すだけで恥ずかしい。口が勝手に動いてた。
そんな気持ち、どこにもなかったのにと思う。
夕貴は、如才なく答えた。
『ありがとう。嬉しいよ。俺もそんな生活に早く戻りたいんだ。』
きっと、相手が自分でなくても、彼はそう言ったに違いない。
自分など、数多くの客の一人に過ぎないから。
彼は、どんな客にも公平につきあうので有名なんだもの。
窓から吹き込む風に、頬を冷ましながら
涼子はそう思うのだ。
後日、夕貴の誕生日に、涼子は約束通り花を贈った。
咲き乱れる花で、店はうまり、また彼の客で埋まり、さぞ華やかなことだろう。
きっとその側には、今井が張り付くようにいるに違いない。
シャンパンタワーに、美酒を注ぎ、満面の笑みを浮かべる夕貴の
艶姿が目に浮かぶ。
職場で夜食のカップラーメンをすすりながら、涼子はまるで
邪念を払うかのようにそう思うのだった。
それからある日、夕貴からお礼のカードが届いた。
見ると、涼子が送った花の写真。
カサブランカ数本がやけに目立つ
こじんまりとした花。
なのに、腰を抜かす程高かった。
『お花、ありがとう。夜の僕にも会いに来て欲しかったな。』とのせりふ。
(バ〜カ。夜のあなたは高値の花で、自腹では行けないのよ。)
そう思うことで、
涼子の気の迷いもそこで冷めた気がしていた。
それから月日は巡り、真央は5年生に上がる。
その頃、涼子は中国語のレッスンに通うようになった。
『ママ、どうして、中国語なんて習うの?』
『ママね、今度上海に仕事で行くことになるの。』
『へえ〜?なんで?』
『少子化で、雑誌買ってくれる人が頭打ちだからよ。』
そう、涼子の雑誌は部数が伸び悩んでいた。
それは何も涼子の雑誌ばかりではない。
少子化で、雑誌の狙う購買層が目減りしてるのが現実。
なので他の雑誌と同じように、中国にその活路を見いだそうとしていたのだ。
その先発隊のメンバーに、涼子も選ばれたのである。
そしてその上海で、涼子は思わぬ出来事に遭遇するが
その頃の涼子は想像もしなかった。