第12話 休みの朝に
真央が朝起きると、涼子がいそいそと出かける用意をしていた。
(ママはまた仕事なのだ、どうせ・・・)と真央。
何も言わず、前を通り過ぎてトイレに行こうとしたら、
『真央、お早う。ちゃんと挨拶しなきゃダメでしょ?』
『うん、お早う。ママ、今日も仕事?』
『ううん、真央も来る?モーニングでも食べようか。』
『え?いいの?一緒に行っても。』
『いいよ。さっさと用意しておいで。お祖母ちゃんにもちゃんと言ってくるのよ。』
涼子は上機嫌だ。
真央は急ぎ用意をして、二人で近所のファミリーレストランに車で出かける。
休日の朝、くつろいだ客。
ゆるい朝の時間が流れる。涼子は朝日の差し込む窓際に座った。
少し眠たげだが、満ち足りた顔をしている。待ち人は未だのようだ。
『ねえ、真央。もうそろそろ中学受験も考えないとね。』
『受験?真央はまだ今度5年生だよ。』
『そう、それでも遅いくらいよ。もう早い子は始めてるわ。』
『・・・う〜。でもみんなと離れるのはイヤダ。』
『何言ってるの。友達なんて、どこでもできるの。心配ないって。真央はいい子だから。』
どうして、急に母親になるのだろう・・常は無関心なのに・と真央は思う。
でも反発できない。逆らうと嫌われる・・・。
真央はそう思う子供だった。
涼子は涼子で思う。
(あの時のママと、今の私も同じだ。自分が楽をしたいが為に、子供に理想を押しつけてる。)
そしてその時の反応が、今の真央と同じ。
嫌われたくなくて、従順を装う。
そして・・いつか、この子も自分がそうだったように
暴発してしまう時が来るのだろうか?
(イヤ、あの頃とは違う。自分はもっと孤独だった。でも真央にはママがいる・・一人ではない。)
そう思えて仕方ない。
涼子は、自分が通った中高大学一体の私立に通わせるつもりだ。
大学は選べるし、その先の進路は、本人が決めればいい。
『でも、1つ問題があるの。』
『何?』
『今まで、女子校だったんだけど、来年度あたりから、共学になるのよ。』
『へえ???』
『少子化だからね。』
少子化の波は、名門の私立校も例外ではなく、業態変更を余儀なくさせていた。
そこで真央は、新しい出会いをする。
また少子化の影響は、涼子にも思わぬ運命をもたらすが、
その時はまだ知るよしもない。
『アア、夕ちゃん。こっち、こっち。』
夕貴を見つけて、涼子が手を振った。
にこやかに、母娘に近づいてくる夕貴に
真央は、どうしようもなく胸の高鳴るのを感じた。




